研究分野
令和7年度 国家課題対応型研究開発推進事業 原子力システム研究開発事業 選定課題
一般課題型(大規模チーム):計1課題
No. | 提案課題名 | 研究代表者 [所属機関] |
参画機関 | 概要 |
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1 | 構造対策とシステム安全対策の連携による不確定性の大きい事象の合理的リスク低減法の研究 | 笠原 直人 [東京都市大学] |
東京大学、日本原子力研究開発機構 | 原子力分野では、構造対策は専ら設計想定事象に対する破損防止に適用され、深層防護に基づく設計想定を超える事象による破損発生後の影響緩和はシステム安全対策の領域とされ、両者の思想や手法は別々のものであった。自然現象に代表される不確定性の大きい事象に対して、破損防止に頼ったリスク低減策は、過大なマージンをとった際限のない強化につながり、技術的限界に近づきつつある。このため、不確定性の大きい事象に対して、影響緩和を重視した合理的なリスク低減法が必要とされている。本研究の目的は、構造の破損発生後にも期待できる影響緩和性能の評価法を開発し、構造対策による影響緩和の効果をリスク評価とシステム安全対策に組み込む(連携)ことで、影響緩和を重視した合理的リスク低減の方法論・技術を開発することである。そのため、以下の研究を実施する。 Ⅰ.構造対策とシステム安全対策連携の方法論の構築 Ⅱ.連携に必要な影響緩和性能評価法の開発 Ⅲ.対策の連携による合理的リスク低減法の提示 【追加の研究概要】 思想や手法が異なる構造対策と安全対策の連携は海外でも実現できておらず、福島第一原子力発電所事故を経験した我が国独自の発想である。革新的であることから、社会実装のためには、具体策の例示による理解促進が必要である。また、リスク低減効果の検証には、実機を考慮した定量評価が必要である。これに対して、構造分野とシステム安全分野に跨る本研究は多人数の体制であることから、一人当たりの研究予算が少額となり、小型試験や簡易解析に基づく検証に留まらざるを得ない。このため、社会ニーズのある以下の課題について、実機に踏み込んだ具体策の研究、および中規模試験と詳細解析による検証のための追加措置を申請する。 追加-a 世代高速炉の設計想定を超える事象における合理的リスク低減 追加-b 軽水炉の炉内構造物の地震時の合理的リスク低減 追加-c 損傷した軽水炉の地震時の合理的リスク低減 |
一般課題型(異分野連携):計2課題
No. | 提案課題名 | 研究代表者 [所属機関] |
参画機関 | 概要 |
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1 | 小型モジュール炉における圧力容器鋼の中性子照射脆化評価に向けたデータ同化可能なマルチスケール計算科学手法の開発 | 熊谷 知久 [電力中央研究所] |
東京理科大学、東北大学、電気通信大学 | 今後、活用が期待される軽水炉型小型モジュール炉では圧力容器の径が小さく、板厚が薄いために、圧力容器鋼が受ける中性子照射条件は、従来の商用軽水炉に比べて、低温・高照射量となることが予想され、従来型商用軽水炉とは異なるミクロ組織、照射脆化挙動を示すと考えられる。しかし、新型炉であるため実機材を用いた評価ができない上に、照射炉の廃炉等により、実験での脆化評価が困難となっている。本研究では,照射脆化予測に資するため、小型モジュール炉の圧力容器鋼の延性脆性遷移温度の変化を予測するキネティックモンテカルロ法・古典分子動力学法・離散転位動力学法を組み合わせたマルチスケールな計算科学手法を開発する。定量的な予測とするため、ミクロな照射組織観察結果を再現するよう機械学習等を活用したデータ同化を可能とするともに、マイクロ材料試験から計算で用いる物性の取得を行い、計算手法の信頼性を高める。 |
2 | 積層造形×センシングによるスマートセラミックス炉心構造体の開発 | 近藤 創介 [東北大学] |
産業技術総合研究所、理化学研究所、物質・材料研究機構 | マイクロ炉のなかでも高温ガス炉は安全性と熱利用の観点から注目される。グラファイトの代替として、炉心構造材にSiC長繊維強化SiC基複合材料(SiC/SiC)を利用する計画は魅力的であるが、現実には前触れなく破壊するセラミックス材料であることを少なくとも認識している。さらに、織物を骨格とするため複雑形状はほぼ不可能で炉の小型化には限界がある。本研究は、原子力用途に特化した高純度SiC/SiC積層造形技術と、航空機分野で培われた破壊を予見するセンシングシステムを統合した、新しいスマート構造体の創製技術でこれらの問題を一気に解決する。東北大が開発した高純度SiC積層造形手法に短繊維を配合することが出来ればSiC/SiCを自由な形状に製造可能である。計装化は、材料内センシングを実用化している航空機分野の知見(NIMS・産総研)、放射線照射下でのセンサ駆動を実現している医療分野の知見(理研)を融合することで可能となる。研究期間内に、ひずみセンサを内蔵した短繊維強化SiC複合材の創製と、中性子照射下での破壊前兆のリアルタイム計測の実証を行う。 |
一般課題型(若手):計5課題
No. | 提案課題名 | 研究代表者 [所属機関] |
参画機関 | 概要 |
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1 | スピンメモリー効果に基づくアイソマー分岐比導出手法に関する研究 | 遠藤 駿典 [日本原子力研究開発機構] |
名古屋大学 | 中性子捕獲反応におけるアイソマー状態の生成割合(アイソマー分岐比)は、原子炉燃料内での熱出力の計算等において必要なパラメータである。特にAm-242のアイソマー分岐比の高精度化は、MOX燃料サイクルの安全性と信頼性の向上につながる。分岐比は熱中性子領域では放射化法と呼ばれる、原子炉等で試料に中性子を照射し、その後の放射化を測定する手法により比較的精度良く測定されている。しかしながら共鳴領域では中性子のエネルギーを区別した測定が必要となり、放射化法を適用することは困難である。そこで本研究ではスピンメモリー効果を利用したアイソマー分岐比導出手法を新たに提案する。スピンメモリー効果とは中性子捕獲後のアイソマー状態を含む低励起状態への遷移強度が、共鳴のスピン状態に依存する現象である。すなわち共鳴のスピンを決めることでアイソマー分岐比が求められる。本研究では実験と理論の両面からスピンメモリー効果を詳細に調査することにより、共鳴のスピンに応じたアイソマー分岐比の導出法を新たに確立し、Am-242の分岐比の導出を行う。 【追加の研究概要】 本研究では中性子捕獲反応で生じる低エネルギーガンマ線の強度を世界最高精度で測定する。これを達成するためにJ-PARC MLFのANNRIにて世界最高強度の中性子ビームと大立体角Ge検出器群を用いることを考えているが、高精度な測定には様々な厚さの試料を再現性よくGe検出器群の中心に設置する必要がある。このために自動試料運搬装置を開発する。これを用いることにより中性子照射直後の強く放射化した試料を人の手を介さず、再現性よく設置・交換することができ、限られた実験時間の中で格段に効率的なデータ収集を実現することができる。また核偏極標的に対する偏極中性子の透過測定により共鳴のスピンを決定する測定において、ANNRIの既存の中性子検出器では最大の計数率が200kcps程度であるためビームを絞っており、J-PARCの大強度ビームを生かすことはできていない。本研究では10Mcps程度で計数できるピクセル型検出器を開発することで効率的な測定を可能とし、多数の革新的なデータを迅速に提供可能な体制を整える。 |
2 | 無機絶縁3重同軸ケーブルの新しい運用方法で実現する過酷環境での精密計測 | 武藤 史真 [高エネルギー加速器研究機構] |
- | 炉心計装で利用される無機絶縁ケーブル(MIC)は高放射線と高温に耐えうる唯一の計装ケーブルだが、放射線と高温による寄生起電力が測定の妨げになり、炉心環境での精密計測における長年の課題となっている。新型炉の運転温度は従来の原子炉に比べて高温であるため、この問題はさらに顕在化すると予想される。さらに、MICは端末処理手法が確立されておらず接続不良が軽水炉の計測機器で問題視されている。これらの課題に対し、先行研究によって確立されたインコネルシースにセラミック編組線を組合わせて製造する無機絶縁3重同軸ケーブル(I-TCoax)の開発を提案する。I-TCoaxが開発できれば、内部シールドを計測用芯線の保護に使うことが可能になり、従来のMIC絶縁体の抵抗率劣化による寄生起電力の問題を解消できる。これにより炉内での精密計測に必要不可欠なMICを開発するとともに、精密計測の応用例として加速器分野で適応実績のある過酷環境で使用可能なキャパシタンス測定器を開発する。キャパシタンス測定は特に精密な測定が求められる機器であるが、本研究で実現するI-TCoaxの存在により初めて製作可能になるものである。キャパシタンス測定器の応用幅は広く、原子炉計装における新しいプラットフォームを提供する。その一例として新型炉心環境で使用可能なダイレクト圧力計についても本研究で開発する。これにより、新型炉の炉心環境での精密測定の実現に加えて、原子炉の型を問わない共通の安全性の改善および稼働率の改善に大きく貢献する。 |
3 | 溶媒抽出研究開発の新機軸開拓:界面反応の活用 | 日下 良二 [日本原子力研究開発機構] |
広島大学 | 本研究は、高レベル放射性廃棄物(HLW)の減容化・有害度低減・資源化に不可欠な、溶媒抽出による放射性元素の高効率な分離を目的とする。従来の溶媒抽出法では、界面反応に関する理解が不十分であり、抽出速度や放射線耐性などに関する多くの課題が未解決である。そこで本研究では、これまで十分に注目されてこなかった抽出界面に焦点を当て、「界面試薬(添加剤)」を開発し、錯体形成を界面で完結させることにより抽出性能(特に抽出速度)の向上を目指す。界面試薬の探索にはコンビナトリアル合成法を活用し、振動和周波発生分光法(VSFG)、第一原理分子動力学(FPMD)シミュレーション、機械学習を組み合わせた多角的アプローチにより戦略的に展開する。本研究の成果は、抽出プロセスの迅速化や放射線劣化の抑制、小型化による経済性・安全性の向上に寄与する。さらに、再委託先となっている広島大学が別途推進する新規抽出剤開発(科研費・基盤A)と相補的であり、連携によって革新的な分離プロセスの実現を目指す。 |
4 | Csゲッター材含有高温ガス炉燃料の開発と評価 | 佐々木 孔英 [日本原子力研究開発機構] |
福井大学 | 高温ガス炉において、運転中に炉心から放出されるCsの一部が、従来の燃料被覆層による物理的なバリアを貫通し、原子炉一次系の沈着FP(放射線量)の9割となる。Csを1次系から無くすことが出来れば、プラント安全性・経済性に多大な恩恵が期待できる。そこで、予め燃料内にCsゲッター材を添加し、発生する放射性Csを炉心内部で化学的に不動化させることで1次系への移行を阻止することを着想し、直近の基礎研究(科研費若手21K14567)の結果、ケイ酸アルミニウムの物性がCsゲッター材に適していることを発見し、特許を取得した。当該技術を実用化した場合、日本製高温ガス炉はプラントの沈着放射能を9割削減できるようになるため、海外の高温ガス炉競合にはない安全性・経済性への優位性を新たに獲得でき、国際競争力の増強が可能となる。 本研究は、上記Csゲッター材添加燃料の実用化研究開発および導入影響評価に関するものである。 |
5 | 小型モジュール炉を対象とした過酷状況下タスク分析モデル・人間信頼性評価モデルの開発 | 張 承賢 [北海道大学] |
- | 2050年のカーボンニュートラル社会実現に向け、安全性・経済性・機動性に優れた次世代革新炉の導入が進められており、小型モジュール炉(SMR)はその中心的存在である。SMRは多くのパッシブシステムを備え、オペレーターの積極的操作が不要であり、複数モジュールの並列運転という新たな運用形態を特徴とする。しかし、その特異性ゆえに従来の人間信頼性評価(HRA)手法の適用には限界がある。そこで本研究では、自動運転技術との比較を通じて、SMR特有の過酷状況下におけるタスク分析とHRAモデルの構築を試みる。また、IAEAが開発したSMR用シミュレーターを活用し、事故シナリオに基づいたリスク評価を実施し、提案するHRAモデルの妥当性を検証することを目的とする。 |