研究分野

令和4年度 国家課題対応型研究開発推進事業 原子力システム研究開発事業 選定課題

基盤チーム型:計1課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 データ科学との融合による核燃料研究の新展開 黒﨑 健
[京都大学]
東北大学、日本原子力研究開発機構、大阪大学、日本核燃料開発株式会社 核燃料研究は、放射線管理を備えた実験設備や実証のための照射場が必要となるため、一般的な研究開発と比べて、時間と手間と費用がかかるため、この負担低減にかかるニーズは大きい。一方、近年データ科学が隆盛を極めている。データ科学の分野では、機械学習という手法を駆使することで、人間の認知能力や分析能力をはるかに越える速さと精密さで、情報を認識し解析する。
本研究では、核燃料研究にデータ科学を取り入れることで、研究にかかる様々な負担を軽減することを試みる。具体的には、①新しい核燃料の開発、②核燃料の物性評価、③照射挙動評価という、核燃料研究を代表する三つの課題をとりあげ、それぞれにおいてデータ科学の取り入れとその有効性を検証する。加えて、これらの研究で使用する手法を共有化するための④プラットフォーム構築にも取り組む。これらの研究を通じて、核燃料研究を適正かつ効率的に進めることができる手法を確立し提案する。

ボトルネック課題解決型:計4課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 高温ガス炉等新型炉の信頼性向上に資するAIを用いた耐震評価技術の研究開発 糸井 達哉
[東京大学]
新潟工科大学 ボトルネック課題解決として、福島第一原子力発電所の事故を受けて再認識された原子力安全への影響が大きい地震等の自然外部事象に関して、優れた固有安全性を有する高温ガス炉の安全性を更に高めるプラントエンジニアリングを構築することを目的とし、地震に関する画期的なリスク評価プロセスの開発に資する基盤研究を実施する。具体的にはAI を用いた地震動波形の生成手法の開発を含めたAI を用いた革新的な詳細耐震解析技術の開発、プラントライフサイクルにおけるデータ収集・更新システムの開発、高温ガス炉等新型炉におけるリスク評価プロセスの開発を実施する。振動試験の実施にあたっては、安全性への影響が生じるような事象・シナリオを抽出した上で実施し、その試験の効率化に資するよう、試験結果の影響度の高いインプットパラメータを学習・抽出可能な、革新的な実験データ取得手法・システムの開発を行う。さらに、将来的には、類似試験体において、実振動試験無しに振動試験データの模擬を可能とするようなシステム構築に資する技術基盤を構築する。
2 小型モジュール炉の社会実装を支援する社会総合リスク情報基盤 澁谷 忠弘
[横浜国立大学]
- 今後のエネルギーシステムは、原子力と再生エネルギーシステムの共生が不可欠であり、この選択を適切に行う為には、特定のリスク評価に止まらず、エネルギーシステムを検討するために必要なリスクを体系的に整理して、適切な手法でそれぞれのシステムの特徴を考慮して総合的に評価することが求められる。
本研究では、社会受容性の獲得がボトルネック課題となっているSMRのような新型炉に対して、リスク情報基盤を整備するとともに、社会リスク構造に基づくシナリオベースの定性的なリスク評価技術を高度化することを目指す。SMRの特徴に基づき体系化された損傷モードベースのリスク情報基盤を構築するとともに、自然災害やテロ等の外的事象を適切に考慮したシナリオベースのリスク評価手法を開発する。社会におけるエネルギーシステムの総合評価手法の確立のため、社会の重要インフラとしての視点から判断に必要なリスク評価指標を明らかにするとともに適切な分析、評価を実施するためのガイダンスを確立させる。提案したリスク情報基盤と社会総合リスクアプローチを小型モジュール炉へ試行して、その有効性、客観性を確認する。
3 AI技術を活用した確率論的リスク評価手法の高度化研究 二神 敏
[日本原子力研究開発機構]
アドバンスソフト株式会社 原子力発電所の確率論的リスク評価(以下「PRA」という。) は、解析作業が膨大であり、技術者不足が深刻になりつつある事業者の負担となっているとともに、国際的に検討されているリスク情報活用アプローチを国内に導入するに当たっての懸案となる可能性がある。この要因は、膨大な設計資料等の読み込みと理解、信頼性データや評価モデルの構築を習熟した技能者が経験に基づいて手作業で入力しなければならない状況にある。この課題を解消するため、習熟した技能者の経験を人工知能(以下「AI」という。) が学習することによりAI、デジタル化技術による自動応答や自動判定を可能とし、手作業であったところを自動化することによって、原子力発電所PRAの省力化・等質化を目指すことが課題解決方策となり得る。
本研究では、原子力発電所のPRAの効率的・効果的な社会実装を目指したイノベーションを創出するため、AI、デジタル化技術を活用して、運転時のPRAにおけるプラント情報の調査、フォルトツリー(FT)作成、及び信頼性データベース構築に着目してAIツールを開発して、PRA手法を高度化するとともに、機器間の依存関係や保安規定等の制約を統合的に取り扱えるプラントモデルを構築し、適切な点検手順と機器構成変化を自動分析する手法を開発して、停止時PRAを高度化する。更に、同モデルを用いた、点検中のリスク低減の観点から課題となる設計の抽出手法を開発し、プラント設計手法の高度化も目指す。
4 ナトリウム-溶融塩熱交換器を有する蓄熱式高速炉の安全設計技術開発 山野 秀将
[日本原子力研究開発機構]
日立GEニュ-クリア・エナジ-株式会社 ナトリウム冷却高速炉の新たな価値として変動性再生可能エネルギーとの共生が挙げられる。米国テラパワー社のNatrium炉に見られるように、高速炉に蓄熱システムを結合させて、不足電力時間帯に電力供給できる機動性をもった新型炉開発は将来必要とされる可能性がある。近年、硝酸系溶融塩を熱媒体とした顕熱蓄熱技術が国外の太陽熱発電(500℃前後の温度範囲)等で既に実用化されている。一方、ナトリウム冷却高速炉の1次系はJAEAを中心にして開発を進めてきた。蓄熱式高速炉に特有の開発要素は、ナトリウムと溶融塩の熱交換器部分であり、それに関する公開情報はない。また、蓄熱式高速炉の安全設計及び安全評価の考え方は整理されていない。
本研究では、硝酸系溶融塩を熱媒体とした蓄熱技術を組み合わせたナトリウム冷却高速炉の安全設計技術開発として、溶融塩蓄熱式高速炉の安全設計方針及びリスク評価技術の開発、並びに、液体金属ナトリウムと硝酸系溶融塩の熱交換性能評価及び熱交換性能を向上させる伝熱向上方策の考案と、熱交換器でのバウンダリ破損を想定した液体金属ナトリウムと硝酸系溶融塩との間の化学反応特性評価及び安全性向上方策の考案を行う。

新発想型(一般):計3課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 次世代炉材料中性子照射実験のための高温・高精度照射キャプセルの開発 青木 大
[東北大学]
- 高温システムである次世代炉のための材料開発では高温での中性子照射実験が不可欠である。さらに、照射実験データの十分な信頼性を確保するためには、照射速度および試料温度を高精度で制御した照射が求められる。しかしながら、国内外の従来型の照射キャプセルでは、照射速度の制御は困難であり、試料温度は照射中に大きく変動するため、そのような照射は不可能である。本研究では、材料照射キャプセルを新規開発することにより、国内外に先駆けて、試料温度等を高精度に制御した上での高温(500℃以上)中性子照射実験をベルギーの研究炉BR2を利用して実現させる。これを、東北大金研大洗センターを窓口とした全国大学共同利用照射を通して学術(特に大学)を中心とする次世代炉材料研究開発コミュニティーに提供する。高温・高精度照射の端緒を開き、次世代炉材料研究の枢要基盤技術である中性子照射実験を進展させようとする。
2 フルセラミックス炉心を目指した耐環境性3次元被覆技術の開発 近藤 創介
[東北大学]
産業技術総合研究所、物質・材料研究機構、京都大学 次世代軽水炉や、SMR等の新型炉では高温強度の優れたSiC複合材が炉心構造材料の選択肢となっている。最大の課題は冷却材による材料腐食や酸化である。国内外の他研究チームは金属被覆で対応できるとするが、照射挙動がセラミックスと異なるため現実的でない。本研究チームは令和3年度に本事業にて終了した課題において、平面SiC複合材上に緻密・極薄セラミックスを被覆するという、それまで不可能であった技術を化学気相成長(CVD)法によって技術確立し、耐腐食性・耐照射性も実証した。
本研究では、気相法である利点を生かして本技術を3次元複雑構造に適用し実証することを目的とする。これまで経験に頼っていた原料ガスの流れを見える化し、微小試験法による被膜性能マップと位置対応させることで、「試料のその場所でなぜ被膜性能が高かったのか」というデータを知識化し成膜プロセスをAIにより最適化するという、実験空間とシミュレーション空間の融合による研究加速も特徴である。
3 機械学習による未整備エネルギー領域での核分裂核データ構築と炉物理への影響評価 石塚 知香子
[東京科学大学]
日本原子力研究開発機構、大阪大学、電気通信大学 核分裂生成物の収率(核分裂収率)は原子炉の安全性を左右する崩壊熱や炉内での遅発中性子放出の他、医療用の核医学検査薬の製造量や核変換技術、核セキュリティのための核鑑識の精度にも直結する非常に重要な核データである。核分裂収率は0.0253eV/500keV/14MeV 中性子入射核分裂を対象として核データ整備されてきたが、アプリケーションの多様化に伴い、従来の3つのエネルギー点以外の連続的なエネルギーでの核分裂収率へのニーズが高まっている。このニーズの高まりを受けて実験データは増えているものの、実験でアクセスできるエネルギーには限りがある。
本研究では、機械学習を駆使して、様々な入射中性子エネルギーでの主要核種の核分裂収率を整備する。また、実験データが少ない核分裂生成物の中性子断面積も機械学習により整備する。さらに新たに構築した核分裂核データが炉物理へ与える波及効果を検証・評価する。以上により、研究開発段階にある新型原子炉に関する研究開発や核燃料物質の原子炉燃料としての使用・再処理・加工に資することを目指す。

新発想型(若手):計2課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 経年劣化耐性に優れた次世代ステンレス鋼溶接金属の設計指針提案 阿部 博志
[東北大学]
物質・材料研究機構、北海道科学大学 国内外における原子力システム研究開発動向に基づけば、次世代炉・新型炉においても、軽水炉で多くの実績があるステンレス鋼が主たる構造材料として使用される可能性が極めて高い。すなわち、ステンレス鋼溶接継手がプラントに数多く存在し、広範な環境条件に曝されることが予想される。
本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属に数~十数%含まれるδ-フェライト相に着目して、将来顕在化する可能性が高い劣化モード(熱時効脆化ならびに応力腐食割れ)への耐性を有する次世代ステンレス鋼の設計指針を提案する。具体的には、(1)溶融凝固過程を考慮した熱時効硬化・ミクロ組織変化挙動評価、(2)データサイエンスを駆使した汎化性能の高いミクロ組織変化予測モデル構築、(3)応力腐食割れ進展抵抗性に優れた2相組織の創成、をデータ駆動型の研究アプローチにより推進する。目的を達成することで、実機条件下における劣化事象の詳細メカニズムとその速度論に立脚したステンレス鋼溶接金属組織・組成提案の技術基盤が確立される。
2 新型炉用セラミック材料の選択的レーザ低温焼結技術の開発 溝尻 瑞枝
[長岡技術科学大学]
日本原子力研究開発機構 新型炉で取り出せる高温熱(約900℃)の水素製造への有効利用には、部材の高温での耐クリープ性に加えて耐放射能汚染性や耐食性が必要である。炭化ケイ素(f)は高温強度や化学的安定性に優れ、高い熱伝導率やトリチウム耐透過性を有することから、新型炉における高温中間熱交換器用の革新材料として非常に有望である。また、高温耐食性に優れた導電性材料である黒鉛も、水素製造に用いる電解セルのセパレータ等へ適用できる。
本研究では、新型炉用セラミックス材料の大型・複雑形状の革新的な三次元積層製造技術(Additive Manufacturing: AM)の実用化に資する原料粉末のレーザ低温焼結を実現するため、セラミックス原料粒子の量子サイズ効果による融点降下とフェムト秒レーザによる超短時間局所加熱を利用したフェムト秒レーザ低温焼結によるAM技術を創成する。ナノ・マイクロ混合粒子原料による低温焼結現象の実験的検証と、マルチフィジックスシミュレーションによるレーザ焼結現象を組み合わせ、低温焼結に適当な原料粒子と焼結条件を明らかにする。
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