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原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集
放射性廃棄物エネルギー有効利用のための新技術開発
(受託者)国立大学法人名古屋大学
(研究代表者)吉田朋子 大学院工学研究科 准教授
(研究代表者)吉田朋子 大学院工学研究科 准教授
1.研究開発の背景とねらい
本事業は,これまで処理処分されることが前提となっていた放射性廃棄物を一つのエネルギー源と見なし,人類のために肯定的に有効利用する道を拓くためのシステムを提案するものである.具体的には,放射性廃棄物が有する高エネルギー放射線(γ線,β線,X線等)を利用して,様々な化学反応促進を図るものである.しかし,γ線などの高エネルギー放射線は,そのエネルギー密度の低さ故に,化学反応への寄与は非常に小さい.例えば水の分解反応においては,放射線化学で言うところのG値(100eVのエネルギー吸収で引き起こされた分解反応の数)でみると,水のγ線による分解のG値は1以下であり,水の分解反応に要するエネルギーが数eVであることを考えあわせると,水に吸収されたγ線のわずか1%以下しか分解には利用されていない.化学反応を効率よく進行させるためには,高エネルギー放射線を化学反応に適した数十〜数eVの光子や電子にできるだけ多く変換することが必要不可欠である.本事業では,放射線と固体との相互作用(コンプトン効果や光電効果,二次電子放出等)を利用して,MeVオーダーの放射線を数eV〜数十eVの多数の光子・電子へ変換することによって,様々な化学反応促進を図ることをねらいとする.
2.研究開発成果
2-1電子・光子に関する理論計算放射線と固体との相互作用によって発生する電子・光子のエネルギーや密度は,固体材料を構成する元素だけでなく固体材料の幾何学的構造によっても変化すると考えられる.固体材料から放出される電子や光子のエネルギーや数,更には反応系の吸収エネルギーを精度良く計算するための方法(計算コード)についても検討した.
1枚の板状金属に対して,γ線を一方向から照射した場合に(図1)板状金属から放出される電子・光子の数とエネルギー分布をMCNPコードによって計算した.結果を図2,3に示す,板状金属から外部へ放出する電子数にはγ線の入射方向依存性があることが見出され,入射方向と同じ方向に放出する電子・光子の方が,逆方向へ放出する電子・光子よりも多い事が示唆された.また板状金属の厚さ(体積)を変えて計算を行うと,放出電子数はある一定の厚さまでは増加し,それ以上の厚さでは飽和或いは減少することが分かった.
図2,3から明らかなように,十分厚い金属板や水の層をγ線が通過する時には,これら材料から発生する電子の数は材料厚さによらず飽和する傾向が認められる.十分厚い材料中ではγ線が単位体積に与えられるエネルギーは,ほぼ一定であり,このため材料の内部で発生する電子密度は場所によってほとんど変わらないと考えられる.
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また,発生電子数が最大値に達した時の値は,軽い金属ほど,高い傾向を示した.コンプトン電子の発生量は物質内の電子数に比例するが,物質内での電子の飛程は単位体積当たりの質量に影響を受ける.つまり,重い物質のほうが,金属板内で発生するコンプトン電子数が多い反面,遮蔽される確率が高くなり,金属板の外に放出されにくいと考えられる.
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ステンレス製の容器に蒸留水約15mlと金属片を入れ,この容器にγ線照射(水の吸収線量で約6.8kGy)を行った.γ線照射後に発生した水素をガスクロマトグラフによって定量した.同条件で蒸留水のみを入れたステンレス製の容器にγ線照射すると,蒸留水1ml当たりから発生した水素は10nmol以下であった.ステンレス製の容器内に蒸留水とAl金属片を共存させても水素増加は僅かに認められる程度であったが,Ni金属片を共存させた時には,水に対するNi金属片の体積が増加するに従って水素発生量は増加することが分かった.具体的には,蒸留水体積に対する共存させるNi金属片の総体積の比が凡そ0.08である時に,蒸留水1ml当たりから発生した水素は200nmolであり,ガスクロマトグラフによる検出誤差を考慮しても,明らかに水素発生量は増加している事が見出された.即ち,固体材料の共存による水素発生量の増加を確認することに成功したといえる.