原子力システム研究開発事業
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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

先進的原子炉燃料セラミックスにおける照射損傷量評価の高精度化の研究

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)石川法人 先端基礎研究センター 研究主幹

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、酸化物セラミックスの照射損傷挙動を三つの要素損傷プロセス((1)弾性衝突効果、(2)溶融飛跡形成、(3)ガス原子蓄積)ごとに体系化し、その統合モデルを構築する。高速増殖炉MOX燃料セラミックス内の照射損傷は、熱伝導度劣化とスウェリングを引き起こす可能性があり、重要な課題として位置づけられる。特に照射損傷とともに核分裂生成物の蓄積は、燃料ペレット温度に影響を与えるだけでなく、燃料-被覆管機械的相互作用にも影響を与える支配的因子である1)。本事業では、照射による燃料損傷評価を高精度で行うことができる技術を開発する。

2.研究開発成果

 本事業では、弾性衝突による損傷を評価するための低エネルギー粒子(10MeV Ni)照射実験および溶融飛跡による損傷を評価するための高エネルギー粒子(120MeV Xe)照射実験を行った。表1に示すように、それぞれをCeO2酸化物セラミックスに照射した場合、同じ核的阻止能(弾性衝突によるエネルギー伝達密度)を持ち、4倍も異なる電子的阻止能(ターゲットの電子系へのエネルギー伝達密度.溶融飛跡形成を特徴付けるパラメータ)の値を持つことが分かっている。
 つまり10MeV Niと120MeV Xeは、弾性衝突による欠陥生成量は同じであると期待できる。また、結果的に10MeV Niと120MeV Xeとでトータルの欠陥生成量が異なるのであれば、それは電子的阻止能の違いに起因するとして解析することができる。
 低エネルギー粒子(10MeV Ni)を、CeO2セラミックス薄膜試料に室温および高温において照射し、照射による損傷を評価した。室温・高温(400℃)で低エネルギー粒子(10MeV Ni)照射されたCeO2薄膜について、X線回折パターン変化の照射量依存性データを1012-1016 ions/cm2程度の広い照射量領域にわたって取得した。その結果、図1に示すように低エネルギー粒子による損傷蓄積挙動は照射量領域によって大きく異なり、照射によって格子定数が減少する低照射量領域(<1013 ions/cm2)と、照射によって格子定数が増加する高照射量領域(>1013 ions/cm2)が存在するというCeO2特有の応答をすることが分かった。また、比較的高照射量の領域(1015-1016ions/cm2)での格子定数増加は、高温照射の方が室温照射より少なく、生成された酸素欠陥の一部が高温では熱消滅したものと推察された。照射量領域で異なる振る舞いを示す格子定数変化データは、格子定数を減少させる欠陥(欠陥A)と増加させる欠陥(欠陥B)の存在を仮定し、その量的バランスによって照射後の格子定数が決まるとすると、ほぼ再現することが出来る。ここで欠陥Aは酸素欠損、欠陥BはCe欠損または過剰酸素を想定している。また、低エネルギー粒子照射による損傷評価を行うためには、既存のシミュレーションコード(SRIM)による損傷評価に対して補正を行う必要があり、補正として欠陥の熱運動の効果および欠陥同士の相互作用を考慮すべきだということが分かった。
 次に、溶融飛跡形成に基づいた損傷プロセスを実験的に模擬することを目的として、高エネルギー粒子(120MeV Xe)を、CeO2セラミックス薄膜試料に室温および高温において照射し、照射による損傷を評価した。高エネルギー粒子照射によるX線回折パターンの照射量依存性の損傷データ取得および解析の結果、定性的には低エネルギー粒子照射の場合と同じ照射量依存性を示すことが分かった。例えば、低エネルギー粒子照射と同様に、照射量を増やしていくに従って格子定数の減少から増加への反転が起きることが分かった。但し、低エネルギー粒子照射の場合と比べて約一桁少ない照射量で反転が起きることが分かった。X線回折ピーク強度についても、高エネルギー粒子照射の場合は、低エネルギー粒子照射の場合に比べて約一桁少ない照射量で、すでに顕著な回折ピーク強度の減少が起きていることが分かった。これらの結果により、核分裂片のような高エネルギー粒子による損傷を評価する際には、弾性衝突効果に基づいた損傷評価法だけでは損傷を過小評価してしまうことを明らかにした。さらに、既存の損傷評価法を高エネルギー領域まで拡張するには、弾性衝突効果と比較して一桁程度多い損傷を導入する溶融飛跡形成プロセスを考慮すべきであることを実験的に示すことが出来た。

3.今後の展望

 今後は、より高照射量・高温領域に実験条件を拡張して低エネルギー粒子照射および高エネルギー粒子照射による損傷を評価すると共に、ガス原子蓄積による損傷を評価する予定である。

4.参考文献

1) 基礎高速炉工学, 基礎高速炉工学編集委員会編, 日刊工業新聞社発行 (1993)p.47.
Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室