原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集
原子力システム管理技術の大規模情報可視化に関する研究開発
(受託者)国立大学法人お茶の水女子大学
(研究代表者)伊藤貴之 大学院人間文化創成科学研究科 准教授
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構、国立大学法人東京大学
(研究代表者)伊藤貴之 大学院人間文化創成科学研究科 准教授
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構、国立大学法人東京大学
1.研究開発の背景とねらい
原子力システムの安全性、信頼性は非常に重要な問題である。これらを保持するためには、原子力システムに備え付けられた計測情報を全て監視できる技術を確立することが望ましいと考えられる。また、これらの計測情報には故障や事故の予兆や、トラブルの原因間の複雑な因果関係が潜むことがあり、これらの発見(データマイニング)は非常に有益であると考えられる。研究代表者が従事している情報可視化という研究分野は、これらの課題の解決に貢献できると考えられる。本事業では、原子力システムが有する非常に多数の計測機器の数値変化の全貌を、全て一画面に表示できる大規模情報可視化技術の研究開発を行うことにより、原子力システムの安全性、信頼性の確保に貢献することを目的とする。具体的な目標として、原子力システムの過去の計測情報の可視化、仮想事故や予兆現象のシミュレーション結果の可視化、などを実現する。また、複数のスクリーンを用いてネットワーク環境上での協調可視化を実現する高度3次元可視化システムについて検討を行う。
2.研究開発成果
本研究開発の成果として、本事業開始前に研究代表者が発表している可視化システム「平安京ビュー」[1]をベースにして、原子力システムの計測情報を対象とした可視化システムを構築した。この可視化システムを用いて、平成17年度には高速増殖炉「もんじゅ」の試験運転データを、平成18年度には仮想事故のシミュレーション結果を、平成19年度には予兆現象のシミュレーション結果を、それぞれ可視化した。試験運転データは「もんじゅ」のオンラインシステムMIDASから、1995年11月24日の定常運転データ、12月1日のトリップ試験データ、12月8日の事故時データをダウンロードして用いた。シミュレーションには日本原子力研究開発機構が保有するCOPDコードを用いて、「もんじゅ」体系仮想事故、革新原子炉体系仮想事故、および4種類の予兆現象のシミュレーションを行った。図1は、本事業で開発した可視化システムによる表示例である。この可視化システムの右側の画面領域では、原子力システムにおける大量の計測情報を、単位系や計測位置などでグループ化された3次元の棒グラフとして表現する。各々の棒グラフの色および高さを、計測値の定常状態に対する相対値、および直前時刻からの変量から算出することで、急激に異常を示す計測情報に注目を促すような可視化を実現している。
また画面の左端にある縦長の領域には、計測情報の時間変化を要約表現するカラーバーと、特定の時刻を指定するボタン群が表示されている。このカラーバーは、原子力システム以外の目的で研究代表者らが既に発表している時系列データ可視化手法に基づき、計測情報の定常状態に対する相対値のヒストグラムを各時刻について表現している。このカラーバーでは、急激に変化する計測情報があった場合には、その現象を誇張するように表現する特徴を兼ね備えている。よって、このカラーバーを観察することで、計測情報に急激な異常があった時刻を発見できる、また、その時刻に対応するボタンを押すと、右側の画面領域にて、指定された時刻における各計測点の計測情報を表示する。これによって、異常が見られた時刻における全ての計測情報を概観することができる。
この可視化システムを用いて原子力システムの各種データを検討した結果を、以下に記述する。「もんじゅ」試験運転データを可視化した結果として、512点の計測情報のうち、ナトリウム漏洩直後に発見された、わずか1箇所の温度値の急上昇を、きわめて明確に視認できることがわかった。続いて、「もんじゅ」体系仮想事故と革新原子炉体系仮想事故の各シミュレーションを比較したところ、外部電源喪失によるトリップ後のナトリウム冷却効果が大きく異なることが、可視化結果の比較によって明確に視認できることがわかった。続いて、4種類の予兆現象シミュレーションを可視化したところ、大きな問題とは言えない程度の微小かつ周期的な数値変化を、カラーバーによって明確に視認できることがわかった。
図2は、本事業で開発した高度3次元可視化システムの構築例である。本事業では複数のスクリーンを用いた2種類の可視化システムについて評価を進めている。1つめのシステムは、複数のスクリーンを1箇所に集約することで、原子力システムの計測情報を多角的に可視化するシステムである。このシステムでは、異なる時刻における計測情報を複数のスクリーンに表示する、あるいは同一の計測情報に異なる数値演算を施したものを複数のスクリーンに表示する、などの手段を提供している。あるいは計測情報の時間変化を別個のスクリーンに表示する手段を提供している。これらの手段によって、計測情報をより多角的に可視化できると考えられる。
2つめのシステムは、計測情報をサーバに配置し、遠隔地からネットワークを介して協調的に可視化できるシステムである。このシステムでは、可視化画面をWebブラウザで表示・操作できるようにしてあり、遠隔地にいる複数のユーザ間で操作結果を共有できる仕組みを搭載している。このシステムによって、遠隔地にいる複数の専門家を交えて、原子力システムの計測情報をリアルタイムに監視することや、より深い議論を進めることが容易になると考えられる。