原子力システム研究開発事業
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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

低除染TRU燃料の非破壊・遠隔分析技術開発

(受託者) 独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)若井田育夫 原子力基礎工学研究部門 遠隔・分光分析研究グループリーダー
(再委託先) 国立大学法人 福井大学

1.研究開発の背景とねらい

  資源の有効利用、環境負荷低減、核不拡散抵抗性、サイクルコストの低減等の観点から、次世代炉心燃料として低除染のTRU含有燃料の利用が検討されている1)。燃料の組成、濃縮度に関するデータは基本的情報であり、燃料製造工程管理や品質保証においても欠かすことができない。しかし、従来の分析手法では、精密な分析が可能である一方で、分析操作が複雑で長時間を要することから、被ばく線量の増大、放射性廃棄物の発生等の問題が生じ、人的・経済的負担が大きくなることが予想される。また、製造工程におけるオンライン分析は困難である。このため、安全で経済的な低除染燃料の利用推進を図るためには、高度な化学操作を要しない非接触な直接分析を、遠隔でしかも迅速に行える簡易分析手法の確立が求められる。
 レーザーブレークダウン発光分光分析法は、パルスレーザー光を試料に照射して励起・生成されるプラズマからの発光を分光分析することで元素組成を分析する方法で、非接触遠隔分析の方法として最も有望な方法の1つである2)。ウラン酸化物、プルトニウム酸化物燃料中の不純物分析及びウラン濃縮度分析等の研究が行われており、不純物について数百ppmの適用例がある3)。同位体分析については、高濃縮ウランへの適用例が4)、また、発光スペクトル線を狭線化し、濃縮プルトニウムの同位体比測定を実現した報告5)もあるが、レーザーブレークダウン分光法は、元素の同時分析が容易である半面、その原理がプラズマ発光の受動的な分光分析法であるため、発光波長の極めて近い同位体を分離分析することは一般には困難である。そこで同位体の分析については、ブレークダウン分光と同様に、試料表面にレーザー光を照射して表面から試料を遊離させた後(アブレーション)、特定の同位体のみが吸収する波長を選んで別の波長可変レーザー光を入射し、得られる蛍光を測定するレーザー励起共鳴蛍光法や6)、その時のレーザー光の吸収により同位体の存在量を評価するレーザー共鳴吸収法7)(両者を合わせてアブレーション共鳴分光法と呼ぶ)の開発が行われ、劣化ウランの濃縮度評価を可能とした報告8)もなされている。
  以上のような現状を踏まえ、本研究開発では、広範囲な元素分析が可能なレーザーブレークダウン発光分光法と同位体分析が可能なレーザーアブレーション共鳴分光法とを、レーザーアブレーションという共通の素過程において有機的に組み合わせることで、核燃料物質中の組成、不純物分析と濃縮度評価を一連の操作で実施可能な手法として確立することに注目した。模擬FP、模擬MAを含有した未照射核燃料物質を対象として、核燃料物質をマトリックスとしたレーザー励起ブレークダウン発光分析法の最適化と、アブレーションにより生成される原子(イオン)雲に対するレーザー共鳴蛍光・吸収法による濃縮度測定法の開発を主たる研究開発課題とし、次世代炉心燃料の候補である「低除染TRU燃料」の遠隔直接分析に必要となる技術基盤の形成を目指すものである。

2.研究開発成果








2.1 ブレークダウン発光の基本特性
 プラズマ発光の方法には、一つのレーザー光で試料のアブレーションとブレークダウンプラズマ発光を同時に行う方法(シングルパルス法)と二つのレーザー光を用いて、アブレーションとブレークダウンを独立に行う方法(ダブルパルス法)9)がある。ここでは主に、数倍から十倍程度の発光強度の向上が見込まれるダブルパルス法の特性について報告する。
1)He雰囲気でのシングルパルス法
 これまでの研究結果から、スペクトル分解能の高い測定にはHe減圧雰囲気が良いことが分かったが、発光強度は低い傾向にあった。発光領域と雰囲気圧力依存性についての詳細な観測の結果、ガスによって発光強度の最大値を与える観測位置が異なることが判明した。観測位置を変化させてCuの発光強度の最大値を比較すると、図1に示すように、He雰囲気の発光強度が高い条件が存在することが明らかとなった。また、図2に示すように、観測される線幅の雰囲気圧力依存性も得られ、発光強度が高く、かつ、線幅も狭い条件が存在することが示された。
2)ダブルパルス法
 ダブルパルス法は、雰囲気ガスをレーザー光で気中放電させてプラズマを生成し、数μs〜数十μs後にアブレーション光を入射して気化させた試料をプラズマ中に拡散させ発光させる方法である。二つのレーザー入射タイミングの最適化と最適な観測位置を選ぶことが重要となる。プラズマ発光領域像の時間変化を観測した例を図3に示す。気中放電のレーザーとアブレーションレーザーとを同時に入射すると、それぞれのプラズマが相互作用することなく独立に振る舞い、発光強度の増大は見られないのに対し、気中放電レーザーをアブレーションレーザーの10〜30μs前に入射すると、気中放電プラズマとアブレーション生成プラズマとが相互作用し、強く安定した発光が得られることが判明した。また、アブレーションレーザー強度や観測位置依存をシングルパルス法と比べてみると、図4に示すように、アブレーション光強度が小さくても強い発光が得られること、最大強度を示す観測位置が異なること等が明らかとなった。また、アブレーション強度が低い場合は、ダブルパルスによる発光強度の増大が10倍を超えることも分かった。

2.2 複雑な母材発光スペクトル中の不純物分析
 単純なスペルトル構造で、スペクトルの重なり合わない金属元素及びその合金の発光スペクトルは、それぞれのスペクトルの重ね合わせとなる。しかしウランなどのアクチノイドはスペクトル構造が極めて複雑で、スペクトルの重なりによりその分別が困難となる。そこで、複雑な母材のスペクトルに混在した発光スペクトルから、不純物等のスペクトルを評価する方法について、Gd中の銅のスペクトル解析から検討した。Cuを230ppm混入させた試料のブレークダウン発光分光測定例を図5に示す。特定のGdの発光スペクトル強度を基準とした相対スペクトルである。GdのスペクトルにCuのスペクトルが混在し、その発光量の定量的な評価が困難であることが分かる。そこで、図6に示す用ように、Gd及びCuの発光スペクトルを各スペクトル成分に分離し、それぞれを重ね合わせることで観測結果と一致するようその強度を決定した。これによって、完全にスペクトル分離ができない場合でも、不純物成分の発光強度評価が可能となった。同様の方法で、Gdスペクトル強度に対するCu強度比を様々なCu濃度に対して測定を行った。結果を図7に示す。不純物の発光強度が濃度に対して直線性のあることが確認された。また、ノイズレベルから検出下限を評価したところ、44ppmが得られ、開発目標である検出感度、100ppmが実現できる可能性のあることが示唆された。

2.3 ウラン試料の製作
 本研究開発の目標は、未照射ウランをマトリックスとした模擬FP、模擬MAのブレークダウン発光分光分析技術の確立である。そこで、Cu、Fe、Siの他、摸擬FPとして希土類であるYを、MAとして分光特性の近いランタノイドであるNdを含有した酸化ウラン試料(13種)を作成した。試料は粉末プレス後、1300℃で8時間焼き固めたもので、直径10mm、厚さ約1〜2mmである。分光用の専用ホルダーに収めた様子を図8に示す。

2.4 同位体の共鳴分光
 同位体の共鳴分光には専用の精密光源開発が不可欠である。従来研究10)11)12)で確立した精密分光用の波長可変半導体レーザー技術を基にして、発振波長幅20MHz以下の単一波長性能で周波数ドリフトが0.1MHz/時以下の安定性と、連続波長掃引幅100GHz、周波数同調誤差±0.5MHz以下の広帯域精密掃引性能とを同時に実現した。さらに、同位体分光で重要となる発振波長の絶対値制御及び任意の波長(同位体共鳴波長)への確実な波長スイッチングに成功し、同位体分光用精密波長可変光源を構築することができた。
 アブレーション共鳴分光により同位体を分別して観測できることを実証するためには、高分解能が実現できる条件を見出すことが最も重要である。そこで、分光特性がウランに似て、同位体が数多く存在し、スペクトル構造がウランより複雑なGd2O3を試料とし、同位体が分別観測できる条件を探した。昨年度までの結果から、共鳴吸収時間変化波形に現れる高速成分と低速成分のうち低速成分を用いることとし、アブレーション強度、共鳴レーザー強度の最適値等を見出すと共に雰囲気ガスの種類(He、Ar、Xe等)圧力、観測位置、観測時刻に対する依存性を詳細に検討した。その結果、アブレーション強度については、アブレーション閾値を見出し、その5倍程度の強度(0.15mJ)が適当であること、共鳴光強度はmW以下(0.1mW程度)が良いことが等明らかとなった。また、ガスの種類とその圧力、観測時刻については、それぞれ最適な値があり、その最適条件では、アブレーションプルームの空間広がりがほぼ同程度となり、最適な観測位置(試料上方約2mm)は変わらないことも明らかとなった。He雰囲気400Pa、観測時刻2μsでの同位体スペクトル観測例を図7に示す。スペクトル観測幅は、昨年度の結果(約3GHz)から大幅に改善され、約0.9GHzを得た。この最適値は、ほぼ室温でのスペクトル幅(0.7GHz)に相当し、最適な雰囲気においては、ガス種に依存すすることなく同様の値となることも判明した。


3.今後の展望

 レーザーブレークダウン発光分光、アブレーション共鳴分光の各素過程について、レーザー強度、時刻、ガス種、ガス圧力といったパラメータの最適条件が見出せつつある。また、不純物混入ウラン酸化物試料の製作も進み、ウランの分光試験を開始した段階である。今後は、基本となる各プロセスを解明して最適化を行いつつ、ウランを用いた分光試験に研究の中心を移し、ウラン特有の複雑なスペクトル構造環境下における組成・不純物分析及び濃縮度評価の実現を追求する。さらに、発光分光と共鳴分光とを一連の操作で実現し、本事業の目的達成を目指していく。

4.参考文献

1) 大野, 安藤, 小竹, 長沖, 難波, 加藤, 中井, 根岸, 日本原子力学会誌 Vol.16 No.10 (2004) 17.
2) E. Tognoni, V.Palleschi, M.Corsi, G.Gristoforetti, Spectrochim. Acta B57 (2002) 1115.
3) P. Fichet, P. Mauchien, C. Moulin, Appl. Spectrosc. 53 (1999) 1111.
4) W. Pietsch, A. Petit, A. Briand, Spectrochim. Acta B53 (1998) 751.
5) Coleman A. Smith, Max A. Martinez, D. Kirk Veirs, David A. Cremers, Spectrochim. Acta B57 (2002) 929.
6) B. W. Smith, A. Quentmeier, M. Bolshov, K. Niemax, Spectrochim. Acta B54 (1999) 943.
7) A. Quentmeier, M. Bolshov, K. Niemax, Spectrochim. Acta B56 (2001) 45.
8) H.Liu, A. Quentmeier, K. Niemax, Spectrochim. Acta B57 (2002) 1611.
9) Jon Scaffidi, S.Michel Angel, David A. Cremers, Analytical Chemistry January 1 (2006) 25.
10) 若井田, 宮部, ぶんせき学会誌 No.10 (2004) 585.
11) Miyabe M, Oba M, Kato M, Wakaida I, Watanabe K, J. Nucl. Sci. Technol. 43 (2006) 305.
12) Miyabe M, Kato M, Oba M, Wakaida I, Watanabe K, Jpn. J. Appl. Phys. 45 (2006) 4120.
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