原子力システム研究開発事業
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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

水素化物中性子吸収材を用いた革新的高速炉炉心に関する研究開発

(受託者)国立大学法人東北大学
(研究代表者)小無健司 金属材料研究所准教授
(再委託先) エンジニアリング開発株式会社、日本核燃料開発株式会社、
国立大学法人大阪大学、国立大学法人東京大学、
ニュークリア・デベロップメント株式会社、
学校法人東海大学、独立行政法人日本原子力研究開発機構

1.研究開発の背景とねらい

 エネルギーの長期的安定供給および環境負荷の低減のために高速炉の開発が進められている。本事業では、酸化物燃料を用いたナトリウム冷却高速炉の経済性向上のため、高速中性子に対して高い制御能力を持つ水素化物中性子吸収材を用いた新しい高速炉の炉心制御技術を確立するため、設計研究、要素技術開発を実施している。
 水素化物を用いるメリットは、材料に高速中性子の減速性能を持たせる事が出来る点である。水素化物中の水素原子密度は、水中の水素原子数密度とほぼ同じであり、減速材である水と同程度の中性子減速性能が期待できる。この性質を利用すれば、高速中性子領域では小さな中性子吸収断面積しか持たない核種でも、高速中性子を水素化物材料内で減速し、大きな中性子吸収断面積を持った核種としての特性を有するようになる。本研究はこの性質を利用して新たな原子炉炉心用材料を開発しようとするものである。

2.研究開発成果

 本事業で実施する項目は、設計研究と要素技術開発の2つである。以下にそれぞれの研究開発成果を示す。
2−1.設計研究
1)設計手法検証
 日本原子力研究開発機構・高速炉臨界実験装置(FCA)で行われた水素を含んだ金属燃料高速炉模擬炉心データを調査・整備し、炉心設計コードによる解析を実施することで計算手法の妥当性を確認した。FCA臨界実験を解析した結果、炉心設計で使用しているJENDL3.3を用いたモンテカルロ計算コードMVP による計算結果は、水素 を含んで軟化したスペクトルを持つ高速炉計算を行うに十分な精度があることが分かった。

2)炉心設計
 FBRサイクルの実用化戦略調査研究(以下「FS」という。)で検討が進められているナトリウム冷却酸化物燃料大型炉心に対して、核的、熱流力的に成立しうる水素化物制御棒(図1)と水素化物バーナブルポイズンの構造、吸収体ピン仕様を明らかにし、その核熱条件を取得して、炉内健全性を評価した。また、水素化物制御棒を適用した場合の炉心予備検討を行い、炉心基本仕様を求めるとともに、停止系についての基本設計を行なった。大型MOX燃料コンパクト型炉心のB4C制御棒と同等の価値を有する水素化物Hf制御棒及び燃焼反応度の低減が可能な水素化物Gdバーナブルポイズンの基本仕様を設定するとともに、発熱量、中性子照射量、吸収体ピン各部温度を評価し、制御要素に作用する応力が降伏応力以下であることを確認した。

3)安全性評価
 安全評価に必要な物性値等のデータを整備し、水素化物を装荷した高速炉の安全性確認に必要となる解析対象事象の選定と評価方法の検討を行った。安全評価用としてFSで検討が進められているナトリウム冷却酸化物燃料大型炉心の仕様を基に暫定評価用炉心を設定し、それら炉心の安全解析に必要な各種データを取得した。また、安全性評価対象事象として、設計基準内事象(DBE)、設計基準外事象(BDBE)それぞれについて検討し、代表的事象を選定した。なお、それらの設定に際して実施した予備検討から、水素化物要素特有の事象は安全性に対して大きな影響はなく、他の代表事象に包絡されるとの見通しを得た。

2−2.要素技術開発
 本事業では、「水素化物長寿命制御棒」用ハフニウム水素化物、「高速スペクトル用水素化物バーナブルポイズン」の2つの要素技術開発を実施している。研究開発成果について以下に示す。

1)ペレット作成と基礎特性試験
 真空排気系、水素供給系、反応管、加熱装置及び圧力計から構成される水素吸収装置を整備しハフニウム水素化物ペレットを作成した。作成した水素化物ペレットは、やや樽型に膨らんだ状態であったが、有害なクラック等は観察されず、健全な様相を呈していた(図2)。密度はH/Hf比の増加に伴い連続的に減少(体積増加)しており、特異な変化は見られなかった。樽型の膨らみはわずかであり、安全性評価上影響することはないと考えられるが、膨らみの程度を少なくするための温度、水素分圧等の試験条件を検討することが必要と考えられる。
基礎特性試験としては、その表面分析、相状態評価、密度測定、熱伝導率測定、弾性定数測定を実施した。その結果Hf水素化物ではδ-HfH2-xの生成を確認した。ガドリニウム含有ジルコニウム水素化物は、室温においてZr水素化物とGd水素化物が偏析して存在することが分かった。

2)被覆管内面処理と水素透過試験
 被覆管の材料であるステンレス鋼は高温で水素の透過速度が大きくなるため、被覆管最高温度またはH/Hf比が制限を受ける。この制限を緩和するため被覆管内面に酸化処理またはスーパーカロライジング処理を施し水素透過を抑制する。FS炉の制御棒被覆材として想定されるフェライト系ステンレス鋼及び従来の高速炉の炉心材料として使用されているオーステナイト系ステンレス鋼について、長尺被覆管内面への酸化処理によるクロム酸化膜及びスーパーカロライジング処理によるアルミナ膜の形成技術を開発している。また、水素透過抑制効果を定量化するために水素透過試験を実施している。これまでに、酸化処理をした板材について水素透過試験を実施した結果1/10以上の水素透過抑制効果を確認した。

3)模擬ピン炉外健全性試験
 内面処理を施さない被覆管にハフニウム水素化物ペレット及び空間体積減少のための石英円柱を装荷した模擬ピンを製作し、原子炉での通常運転条件を考慮して600℃及び700℃においてそれぞれ500時間の耐高温試験を行った。耐高温試験後の試料の外観検査、光学顕微鏡観察、電子顕微鏡観察では有害なペレット外径変化、クラックの発生は認められなかった。内面処理を施さない被覆管を用いたため被覆管を通しての水素透過が起こりハフニウム水素化物ペレットの水素濃度減少があったが、水素濃度変化によるハフニウム水素化物の格子定数への影響は小さくペレット外径変化等への影響は小さいことが分かった。

4)ナトリウム共存性試験
 制御棒被覆管破損の万一の事象発生時には、水素化物ペレットは高速炉冷却材と接触することからNa 共存性が良好であることが望まれる。そこで、高温Na 環境中に水素化物ペレットを浸漬させ、その共存特性を調査した。H/Hf 比を変えた(1.1〜1.6)水素化物ペレットを供試材とし、600℃の高温Na 中に最長1000h 浸漬し、供試材の重量変化や表面形態を観察した。なお、Na 浸漬に使用した試験装置は、Na の循環機能や温度差を有しないポット型でSUS316 鋼製であり、カバーガスにはアルゴンガスを用いた。Na浸漬後の供試材外観観察および走査型電子顕微鏡(SEM)の結果、いずれの供試材もNa未浸漬材のブロンズ色から黒色あるいは茶褐色に変色したが、溶解や割れの発生などは確認されなかった。SEMによる表面観察においても局部的な腐食痕は観察されず、供試材製作時の機械加工傷がNa浸漬後においても明瞭に確認できることから、Naによる腐食は小さいことが判る。

5)「常陽」照射試験
 原子炉炉心での水素化物の使用実績は米国GA 社のTRIGA 炉を除くと数が少ない。特に公開された照射試験データはほとんどなく水素化物中性子吸収材の開発には照射試験データの蓄積が大きな課題である。照射下での安定性、特に高速中性子照射下での安定性を調べるため、「常陽」での照射試験を実施している。
 ハフニウム水素化物、ガドリニウム含有ジルコニウム水素化物及び水素透過防止用コーティングを施した被覆管材料を製作し、それらの試料をステンレス鋼製のスリーブに組み込み密封溶接し、キャプセルに組み込んだ。このキャプセルをコンパートメント(図3)に組み込みリグに装填した。「常陽」において、平成19年3月7日に照射を開始し、予定通り照射試験を完了した(図3)。冷却期間を経て照射後試験を開始した。X線CT試験の結果では、水素化物中性子吸収材に割れ、かけ等は確認されなかった。現在、照射後試験を継続中である。

3.今後の展望

 設計研究については、FSで検討が進められているナトリウム冷却酸化物燃料大型炉心に対して、核的、熱流力的に成立しうる水素化物制御棒と水素化物バーナブルポイズンの構造、吸収体ピン仕様を明らかにし、当初の予定通り炉心の予備検討を完了した。設計手法検証、安全性評価についても計画通り進捗している。
 要素技術開発については、水素化物ペレット作成において良好なペレットを作成できる見通しを得た。また、被覆管内面処理、炉外健全性試験、「常陽」照射試験は、それぞれ計画通り進捗している。今後はこれら4項目の成果を有機的につなぐことにより、水素化物制御棒と水素化物バーナブルポイズンの作成技術の完成を目指すと共に高速炉炉心での使用条件を明らかにしていく予定である。
 本事業を開始してから約1年半を経過し、新しい知見が蓄積されてきている。今後、これらについて、学会、国際会議、学術論文に積極的に外部発表を行い本研究成果についての議論を深めたいと考えている。

4.参考文献

 原子力学2008春の年会(2008年3月26日(水)-28日(金))において下記8件のシリーズ発表を行う予定である。
1)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(1)高速炉用Hf水素化物制御棒の設計
2)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(2)高速炉用Gd水素化物バーナブルポイズンの設計
3)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(3)水素化物を用いた炉心の核設計手法の検証
4)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(4)水素化物中性子吸収材を装荷した高速炉の安全解析
5)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(5)水素化物ペレットの作製
6)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(6)金属水素化物の物性測定
7)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(7)ナトリウム共存性試験
8)高速炉用水素化物中性子吸収材の開発(8) 高速実験炉「常陽」を用いた照射試験計画の概要と中間報告
また米国アナハイム市で開催される2008年革新炉国際会議(ICAPP2008)で発表を予定している。
Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室