原子力システム研究開発事業
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(資料5)中間・事後評価の結果 レーザを用いた超高感度分析技術による高速炉のプラント安全性向上に関する研究
原子力システム研究開発事業における平成17年度採択課題中間・事後評価の結果について

原子力システム研究開発事業−基盤研究開発分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名及び研究開発分野

 課題名:レーザを用いた超高感度分析技術による高速炉のプラント安全性向上に関する研究
 分野:革新技術創出型研究開発、革新的原子炉技術

2.研究開発の実施者

機関名:原子力機構  代表者氏名:青山 卓史
機関名:名古屋大学  代表者氏名:井口 哲夫
機関名:東京大学  代表者氏名:竹川 暢之

3.研究開発の概要

 高速炉の冷却材に用いているナトリウムは炉心の冷却機能を担うとともに、化学的に活性な特性をもつため、その漏えい検知は安全確保上重要である。この技術では、漏えいの初期段階で、微量のナトリウムを感度良く検出することが求められる。冷却材配管から漏えいした微量のナトリウムは、雰囲気ガスに含まれる酸素等と化学反応して化合物を形成し、エアロゾルとなって配管の周辺に漂う。現在、極微量のナトリウム漏えいを検知するため、ナトリウムイオン化式、放射線イオン化式等の検出器が使用されている。ただし、上記の検出器は、原理的にナトリウム元素を検出するため、冷却材配管周辺の雰囲気に含まれる塩分がバックグラウンドとなり、この濃度より低い微量な漏えいナトリウムを検知することはできない。そこで、本研究ではナトリウム漏えい検知にレーザ共鳴イオン化質量分析法(Laser Resonance Ionization Mass Spectrometry:RIMS)を適用することにより、天然ナトリウム(23Na)に加えて、高速炉の1次冷却材ナトリウムから中性子照射によって生成した放射化ナトリウム(22Naあるいは24Na)を高感度で検出する技術を開発する。RIMSとは元素に固有の共鳴波長をもつレーザを照射して、特定の元素を選択的にイオン化した後、このイオンを飛行時間型質量分析計(Time of Flight Mass Spectrometer:TOFMS)で質量分析する方法であり、感度が高く同位体別の測定が可能である。ナトリウム元素の検出感度を現状の100ppbから2〜3桁程度まで高めるとともに、放射化ナトリウムの検出に対するRIMSの適用性を評価することを本研究の目標とする。本研究では、ナトリウム分析用のRIMS装置を試作し、高速実験炉「常陽」の1次冷却系から採取した放射化ナトリウムをエアロゾル化して分析することにより、ナトリウム同位体に対するRIMSの検出性能を評価する。

4.研究開発予算

平成17年度  23,490千円
平成18年度  102,331千円
平成19年度  200,391千円
平成20年度(予定)  21,000千円
平成21年度(予定)  21,000千円

5.研究開発期間

 平成17年12月 〜 平成22年3月 (5年計画)

6.H18年度までの目標

【研究開発項目1;検出感度向上】
 イオントラップの適用によりRIMSシステムの検出感度向上を図る。イオントラップは、電場を利用して特定の質量電荷比をもつイオンを選択的に捕獲・蓄積する装置であり、蓄積過程においてバッファーガスとの衝突によりクラスターを単原子イオンに解離する効果がある。開発手法としては、これまでの研究実績を考慮して希ガスを検出対象とした試験を行い、その結果からナトリウムイオンの検出に対する適用性を評価する。
 平成17年度にはRIMSシステムを整備しイオントラップ導入前の検出感度を評価するとともに、イオントラップ導入時に構成要素間で動作タイミングが取れるよう調整する。
 平成18年度にはRIMS システムにイオントラップを組み込んで希ガスの分析試験を行い、イオントラップの動作パラメータが検出感度に及ぼす影響を評価し、その結果からナトリウムイオンを高感度で検出するためのイオントラップの適用条件を検討する。

【研究開発項目2;ナトリウムエアロゾル採取技術開発】
 本項目では、検出感度向上の観点から、エアロダイナミックレンズを用いてナトリウムエアロゾルを真空チャンバ内に効率良く導入する手法を検討する。エアロダイナミックレンズはチューブの内部に数段のオリフィスを連ねたものであり、オリフィスの作用により粒子をビーム状に収束しつつ真空チャンバの内部に導入することができる。エアロダイナミックレンズを用いたエアロゾル採取方式のメリットとして、上記の検出感度向上に加えて、一般的なフィルタ方式に比べ、ロードロック機構が不要なためオンラインシステムを簡素化できることが挙げられる。エアロダイナミックレンズの粒子透過特性は対象粒子の直径に依存するため、粒子透過率の粒径依存性を定量的に検討する。

【研究開発項目3;ナトリウム分析基礎技術開発】
①蒸気化法の検討
 ナトリウムエアロゾルをRIMSで検出するためには、レーザ共鳴イオン化の前段階として、ナトリウムエアロゾルを蒸気化してナトリウム原子の状態にする必要がある。そこで、レーザアブレーション、ヒータ加熱等の蒸気化法について、主に蒸気化効率や蒸気の拡散抑制の観点から検討する。レーザアブレーションとは、物質に短パルス・高輝度のレーザを照射して瞬間的に蒸発させ、プラズマ化を経て原子化する手法である。また、アブレーション用レーザの照射位置を正確に設定するためには、光ファイバを用いた伝送手法が有効であるので、その適用性を評価する。
 平成17年度にはアブレーション用レーザのファイバ伝送特性を調べ、ファイバ伝送システムの適用性を評価する。
 平成18年度にはナトリウム分析試験用イオン化チャンバを製作し、これと既存のRIMSシステムを用いて基礎データを取得し、蒸発特性を評価する。
②レーザ共鳴イオン化法の検討
 ナトリウム原子を選択的に効率良くイオン化する観点から、レーザ共鳴イオン化法について検討する。また、ナトリウム同位体を選択的にイオン化する方法についても検討する。
 平成17年度には、レーザ線幅の狭い半導体レーザを用いてナトリウム同位体を選択的にレーザ共鳴イオン化する方法について検討する。
 平成18年度にはナトリウム分析試験用イオン化チャンバ及びRIMSシステムを用いて基礎データを取得し、ナトリウム原子のレーザ共鳴イオン特性を評価する。

【研究開発項目4;試験装置の検討・設計・製作、及びそれを用いた検証試験・性能評価】
①試験装置の検討・設計
 RIMSを原理とするナトリウム漏えい検知のプロセスを検討し、試験装置を設計する。
 平成17年度にはナトリウム分析評価に係るデータベースを整備し、これに基づきRIMSによるナトリウム漏えい検知のプロセスを検討する。
 平成18年度には、検知プロセスの検討を進め、試験装置の概念設計及び性能予測を行い、さらに、試験装置を構成する要素機器の基本仕様を決定し、設計を進める。
②試験装置の製作・試験
 上記①の設計に基づき試験装置を製作し、ナトリウム漏えい検知試験用のRIMSシステムを構築する。このシステムを用いてナトリウム同位体の検出性能を評価する。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1;検出感度向上】
 平成17年度にはイオントラップ導入前の質量スペクトルを測定し検出感度を評価するとともに、デジタルディレイパルスジェネレータを用いてRIMS システムの構成要素機器に所定のタイミングでトリガ信号を印加できるシステムを構築し、その動作を確認した。
 平成18年度にはRIMSシステムに、イオントラップ及びイオントラップ用電源(交流電源及び高圧パルス発生器)を組み込んで希ガスの分析試験を行い、イオントラップの基本的な動作であるイオン引き込み、イオン蓄積及びイオン引き抜きの各動作において、パラメータ(印加電圧、イオン蓄積時間、イオン引き抜き時間及び各構成要素間との動作タイミング等)が検出性能に及ぼす影響を評価した。その結果、イオントラップの特性を把握し、その効果を確認するとともに、検出感度を向上させるための課題を抽出した。この結果からナトリウムイオンの検出に関するイオントラップの適用条件を評価した。ナトリウム原子には紫外・可視波長域でのレーザ共鳴励起による自動電離レベルがないため、共鳴励起とパルス電場イオン化を組み合わせたスキームが高感度化の観点から有利である。研究開発項目3に示すように、パルス電場イオン化を適用したスキームの方が、それを適用しないスキームよりも感度が約10倍高く、また、イオン化のためには約5kV/cmの強電場が必要となる。上記のパルス電場イオン化を適用した場合、電場の影響によりイオンが加速され、イオントラップによるイオン捕獲率が著しく低下するため、イオントラップを併用できないことが分かった。研究当初想定したイオントラップによる感度向上は数倍程度であるため、両者を比較した結果、イオントラップなしでパルス電場イオン化を適用した方が高い感度が得られる。
 以上より、試験装置にはイオントラップを採用しないこととし、当初イオントラップで見込んでいた感度向上は、エアロゾル濃縮性能の高いエアロダイナミックレンズの採用により達成することとした。

【研究開発項目2;ナトリウムエアロゾル採取技術開発】
平成19年度は、現状、試験システムの準備を進めている。

【研究開発項目3;ナトリウム分析基礎技術開発】
①蒸気化法の検討
 平成17年度にはファイバカップリングを用いたファイバ伝送試験を実施し、コア径が0.4mm以上の光ファイバを用いることで、当初目標であるサブmJレベルのレーザパルスエネルギーを70%程度の伝送効率で伝送できることを確認した。これにより、アブレーションに関する基礎データの取得に必要なレーザパルスエネルギーを光ファイバで伝送するための条件を確認した。
 平成18年度には、最終的にナトリウムエアロゾルを効率良くレーザ共鳴イオン化する観点から各種蒸気化法のうちレーザアブレーション法に候補を絞り、この手法に関して、製作したチャンバ及び既存のRIMSシステムを用いて基礎データを取得した。その結果、蒸気拡散速度分布は、3000Kのマックスウェルボルツマン則に従い、蒸気拡散方向分布は、n=20の余弦分布に従うことが分かった。また、バックグラウンドとなるナトリウム信号を低減する観点から、エアロゾル集積用基板の素材について調査した結果、高沸点のタングステン及び高純度のチタンが母材候補として有力なことが分かった。以上より、ナトリウムエアロゾルの蒸気化プロセスに関して、試験装置の設計に必要な基礎データを取得できた。
 平成19年度は、現状、模擬試料及び試験装置の準備を進めている。実機では基板上にナトリウムエアロゾルを集積した状態で蒸気化するため、この状態を模擬した試料を作製中である。
②レーザ共鳴イオン化法の検討
 平成17年度にはファブリペロー干渉計を用いて半導体レーザの線幅を測定し、その結果に基づきナトリウムのD線(波長589nm)を利用した同位体選択的イオン化方法について検討した。その結果、半導体レーザの線幅は24MHz程度であり、質量分析装置に要求される分解能を2〜3桁下げられる可能性を見出すとともに、光吸収スペクトルのドップラー拡がりを抑制することが重要な課題であることが分かった。
 平成18年度にはレーザ共鳴イオン化スキームとして、平成17年度の文献調査で有力であると選定した(a)1光子共鳴励起+パルス電場イオン化スキーム、及び比較のため抽出した(b)1波長のレーザを用いた2光子共鳴励起+1光子イオン化スキーム、に関して基礎データを取得し、遷移断面積、イオン化に対する飽和レーザエネルギー密度及びパルス電場イオン化に必要な電場強度を評価した。その結果、イオン化を飽和させるレーザエネルギー密度は、(b)の方が(a)より約40倍必要であることが分かった。また、光パラメトリックレーザ発振器を用いた場合、(b)の波長の方が(a)の波長よりレーザ出力が4倍大きいことから、これらを総合して、(a)の方が(b)より約10倍感度が高いと評価した。また、パルス電場イオン化には約5kV/cmの電場が必要なことが分かった。以上より、ナトリウム原子のレーザ共鳴イオン化プロセスに関して、装置設計に必要な基礎データを取得できた。
 平成19年度は、現状、模擬試料及び試験装置の準備を進めている。

【研究開発項目4;試験装置の検討・設計・製作、及びそれを用いた検証試験・性能評価】
①試験装置の検討・設計
(実績及び得られた成果)
 平成17年度には文献調査によりナトリウム分析評価に係るデータベースを整備し、これに理論的考察を加え、RIMSによるナトリウム漏えい検知のプロセスについて系統的に検討した。
 平成18年度には検知プロセスの検討を進め、エアロダイナミックレンズによるエアロゾルのサンプリング手法、レーザアブレーションによるエアロゾルの蒸気化手法及び1波長共鳴励起とパルス電場イオン化を組み合わせたイオン化手法を選択した。イオン化手法の選択においては、研究開発項目3②の検討結果も考慮に入れた。なお、研究開発項目1の結果を踏まえて、イオントラップは採用せず、代わりにエアロダイナミックレンズ等の採用により検出感度の向上を図ることとした。上記の結果に基づき、試験装置の概念設計を行い、ナトリウム同位体の個数密度の移行を予測し、試験装置の構築について見通しを得た。試験装置の概念設計に基づいて、要素機器(ナトリウムエアロゾル供給装置、ナトリウムエアロゾルサンプリング装置、ナトリウム蒸気化装置、イオン化チャンバ)の基本設計を行い、各要素機器を構成する基本要素とその機能を具体化した。ナトリウムエアロゾル供給装置については詳細設計まで完了した。
 平成19年度は、現状、エアロダイナミックレンズ、原子化及びイオン化用機器等の詳細設計を進めており、当初の計画どおり、平成19年9月に試験装置の設計を完了する予定である。なお、エアロダイナミックレンズの詳細設計は、現時点の知見に基づいて進めており、研究開発項目2で得られた成果は平成20年度に反映する。
②試験装置の製作・試験
(実績及び得られた成果)
 平成18年度には、ナトリウムエアロゾル供給装置を製作し、機能確認試験を実施した。機能確認試験として、上記の装置から発生したガスをマイクロフィルタで濾過し、捕集したエアロゾルに含まれるナトリウムを定量分析した結果、ナトリウムエアロゾルの発生を確認することができた。分析結果から評価したサンプルガス中のナトリウム濃度は約1×10-9g/ccであり、上記の装置が備えている希釈器の使用により、検証試験の実施に必要な濃度範囲10-13〜10-10g/cc(100ppt〜100ppbに相当)を確保できる見込みである。
 平成19年度は、現状、その他の要素機器の製作・準備を進めている。当初の計画より3ケ月早く、平成19年12月にナトリウム漏えい検知試験用RIMSシステムを完成し、平成20年1月から、このシステムを用いたナトリウムエアロゾルの検出試験に着手する予定である。

【事業全体】を通して
 事業計画は予定どおり進行しており、今年度には試験装置を構築し、性能評価試験に着手する予定である。また、当初予定していなかったが、プロセス検討の過程で、ナトリウムエアロゾルのサンプリング方法としてエアロダイナミックレンズを用いた手法が、検出感度向上の観点から有効であることが分かった。そのため、本手法において研究実績を有する東京大学が平成19年度に再委託先として参画している。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
  • 極微量のナトリウム漏洩を検知可能であり、ナトリウム冷却高速炉の安全性確保、運転管理上有効な技術となる可能性がある。しかしながら、エアロゾル集積板の捕集率の不確かさが懸念される。また、実用化に向けては、レーザー光源の寿命などの課題を解決することが重要である。
  • 本研究を次の試験段階に進めるに当たってはエアロゾル集積板の捕集率の実績または不確かさによる影響の検討結果について、中間評価委員会委員長による事前の確認を受けてから、進めることが適当である。

【研究開発項目1】検出感度向上
  • 検出感度を上げるためにイオントラップ方式よりダイナミックレンズ方式に変更し、目標達成の見込みを得ている。両方式の比較検討結果は、よりよいシステムを選択する貴重なデータベースとなっているので、イオントラップ法についても今後他の研究開発に活用できるよう、試験結果の全てを報告書にまとめてもらいたい。

【研究開発項目2】ナトリウムエアロゾル採取技術開発
  • ダイナミックレンズ方式を適用する場合に今後予想される課題として、集積板におけるエアロゾルの捕集率が仮定値よりも小さくなることと、レーザー光源の性能と感度、耐久性が問題となることが考えられる。対応策を今から十分に検討して試験装置の設計・製作に反映することが重要である。

【研究開発項目3】ナトリウム分析基礎技術開発
  • エアロゾル集積板を導入して入射部と計測部を分離するアイデアは非常に新規性がある。大いに成果が期待できるので継続すべきである。

【研究開発項目4】試験装置の検討・設計・製作、及びそれを用いた検証試験・性能試験
  • 集積板におけるエアロゾル捕集率、レーザー光源の性能と感度、耐久性等、要素技術で不確かな部分に研究成果を適宜反映して、実用化につなげてもらいたい。

9.中間評価結果

  • 検出方式を変更することにより、懸案となっていた検出感度の目標値を達成する可能性がでてきた。今後は、エアロゾル集積板の捕集率の不確かさを解決することが重要となる。また、実用化に向けては、レーザー光源の寿命などの課題を解決することが重要である。
  • 本研究を次の試験段階に進めるに当たっては、エアロゾル集積板の捕集率の実績または不確かさによる影響の検討結果について、中間評価委員会委員長による事前の確認を受けてから、進めることが適当である。

10.総合評価

(期待以上の成果が見込め継続すべき)
(ほぼ期待通りの成果が見込め継続すべきだが、計画について一部調整の必要がある)
(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
(継続すべきではない)

Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室