原子力システム研究開発事業
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(資料5)中間・事後評価の結果 新技術を活用した高速炉の次世代安全解析手法に関する研究開発(基盤研究開発分野)
原子力システム研究開発事業における平成17年度採択課題中間・事後評価の結果について

原子力システム研究開発事業−基盤研究開発分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名

 新技術を活用した高速炉の次世代安全解析手法に関する研究開発(基盤研究開発分野)

2.研究開発の実施者

機関名:国立大学法人東京大学  代表者氏名:越塚誠一
機関名:国立大学法人九州大学  代表者氏名:守田幸路
機関名:独立行政法人日本原子力研究開発機構  代表者氏名:飛田吉春
機関名:豊橋技術科学大学  代表者氏名:伊藤高啓
機関名:原子力発電技術機構  代表者氏名:内藤正則
機関名:日本システム  代表者氏名:山本雄一

3.研究開発の概要

 燃料溶融を伴う高速増殖炉(FBR, fast breeder reactor)の炉心損傷事故(CDA, core disruptive accident)時の炉内挙動を高精度で解析するため、炉心物質の相変化(蒸発/凝固、溶融/固化)を伴う複雑な多成分多相流の熱流動現象を取り扱える構成式に依存しない新しい計算科学(MPS(moving particle semi-implicit)に基づく革新的な数値解析手法を開発する。
 本研究開発では、構成式に依存しない新しい計算科学(MPS法)に基づく解析技術を既存実験を用いて検証しつつ、最終的にマクロコードを補完的に利用して境界条件を設定することによりCDAにおける物理現象に適用し、検証することで汎用的な安全解析用個別現象詳細解析コードを開発する。
 これにより、FBRの安全評価に適用することで、CDAが再臨界に至ることなく終息する事故事象として推移するか否かを、マクロ・ミクロ現象レベルでの評価することが可能となる。

4.研究開発予算

平成17年度  18,184千円
平成18年度  116,691千円
平成19年度  128,221千円
平成20年度(予定)  122,400千円
平成21年度(予定)  86,600千円

5.研究開発期間

 平成17年12月 〜 平成22年3月 (5年計画)

6.H18年度までの目標

【研究開発項目1】
(1)MPS法による解析コードの開発と検証
①MPS法による解析コードの開発
 東京大学で独自に開発された粒子法であるMPS法に基づいて、高速炉の炉心損傷事故における個別事象の詳細解析が可能な構造解析や相変化も含む多成分多相熱流動解析コード(COMPASSコード)を開発する。(日本システム、原子力発電技術機構)

【研究開発項目2】
(1)MPS法による解析コードの開発と検証
②MPS法による解析コードの検証
 COMPASSコードの個別機能の基礎的な検証および、高速炉の炉心損傷事故の代表的な7つの個別事象について総合的な検証をおこなう。平成18年度は流体力学部および構造力学部の個別機能の検証をおこなう。
(日本システム、原子力発電技術機構)

【研究開発項目3】
(2)金属燃料の物性予測解析
①CALPHAD法による金属燃料の共晶物性予測
 本項目では熱力学的平衡計算に基づくCALPHAD(Computer Calculation of Phase Diagram)法によって平衡状態での共晶物性を予測する。得られた物性はCOMPASSの物性ライブラリに反映する。平成18年度までにはCALPHAD法を用いてFe-U-Puの状態図を評価する。
(九州大学)

【研究開発項目4】
(2)金属燃料の物性予測解析
②分子動力学法による共晶現象の局所メカニズムの解明(共晶反応挙動を予測するための速度論的な考察)
 CALPHAD法を用いて平衡状態での共晶物性を予測する一方で、分子動力学を用いて共晶反応の過渡的な解析をおこない、共晶反応の反応速度を予測する。分子動力学として、古典的分子動力学(原子間ポテンシャルを与えて古典力学におけるニュートン方程式を用いる)と第一原理分子動力学(電子状態の計算に基づいて原子間ポテンシャルを導出して原子の運動を計算する)を並行して用いる。平成18年度までには、古典分子動力学では従来の知見があるCu-Ag系の共晶反応解析をおこなう。第一原理分子動力学では共晶反応に関する基礎的な解析をおこない、その適用性を検討する。
(豊橋技術科学大学、日本システム、原子力発電技術機構、九州大学)

【研究開発項目5】
(3)MPS理論開発とコード開発
①理論開発
 本事業で用いる粒子法に関連した理論開発をおこない、コード開発に役立てる。平成18年度までには気相中での圧力波伝播や圧力変化に伴う気相の状態変化を解析するために、圧縮性を扱える粒子 法の開発をおこなう。
(東京大学、原子力発電技術機構、日本システム、九州大学)

【研究開発項目6】
(3)MPS理論開発とコード開発
②コード設計
 COMPASSコードの設計をおこなう。ここで作成した設計に従い項目(1)①でコードを開発する。平成18年度までには基本設計の見直し、熱流体力学部と構造力学部の詳細設計をおこなう。構造材の材料物性の調査と定式化もおこなう。
(日本システム、原子力発電技術機構)

【研究開発項目7】
(3)MPS理論開発とコード開発
③並列計算手法
 COMPASSには並列計算の機能を加える。平成18年度までは基本設計、並列計算の作業を実施する。
(日本システム、原子力発電技術機構)

【研究開発項目8】
(3)MPS理論開発とコード開発
④可視化手法
 大規模解析では計算結果を可視化することで現象の理解が可能になる。特に高速炉の炉心損傷事故では、多成分多相の複雑な3次元の熱流動現象となり、これに適合した可視化技術の開発を行う。平成18年度までに可視化のための既存ソフトウェアを購入し、これを用いて適用性を検討する。
(日本システム、東京大学)

【研究開発項目9】
(4)SIMMER-III解析
①現行解析の問題点の摘出
 COMPASSの開発にあたり、平成17年度までに既存の安全解析コードSIMMER-IIIを用いた現行解析の問題点を抽出する。COMPASSが完成した時にはSIMMER-IIIは炉心全体を扱うコードとして、COMPASSは個別事象の詳細解析を扱うコードとして相補的な関係を目指す。(九州大学)

【研究開発項目10】
(4)SIMMER-III解析
②既存試験と今後の試験の分析
 SIMMER-IIIの検証解析の経験に基づきCOMPASSの検証計画を作成する。平成17年度はCOMPASSの基礎検証計画案および総合検証計画案を作成する。平成18年度は検証計画案の各項目についてスクリーニングをおこなう。
(九州大学、日本原子力研究開発機構)

【研究開発項目11】
(4)SIMMER-III解析
③SIMMER-IIIコードによる解析
 COMPASSの総合検証をおこなうため、全炉心を解析できるSIMMER-IIIで予め対象とする試験の解析をおこなう。その結果をCOMPASSの境界条件として与える。平成18年度に3分野についてSIMMER-III解析を実施する。
(日本原子力研究開発機構)

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】
(1)MPS法による解析コードの開発と検証
①MPS法による解析コードの開発
 東京大学で開発したMPS法が炉心損傷事故時の個別事象解析への適用性に優れた手法であることが確認できた。MPS法解析コードに基づき、熱流体力学部、流体・構造連成部、物性ライブラリ、構造力学部のコード開発を実施した。なお、本事業で開発するコードはCOMPASSと名づけた。

【研究開発項目2】
(1)MPS法による解析コードの開発と検証
②MPS法による解析コードの検証
 流体力学部と構造力学部の基礎的な検証解析を行い、溶融金属による構造壁の破損や溶融金属の凝固など、最終目標であるFBRのCDAの個別事象に類似の問題を解いており、開発されたコードの有用性が示された。

【研究開発項目3】
(2)金属燃料の物性予測解析
①CALPHAD法による金属燃料の共晶物性予測
 金属燃料の基本物性ライブラリを整備するとともに、CALPHAD法に基づくThermo-calcコードに各種熱力学データベースを適用することでFe-U系, Fe-Pu系, U-Pu系, およびFe-U-Pu系状態図の計算ができるようにした。文献に載っている実験データとも整合しており、計算で得られた状態図は妥当であると評価できた。

【研究開発項目4】
(2)金属燃料の物性予測解析
②分子動力学法による共晶現象の局所メカニズムの解明
 古典分子動力学ではCu-Ag系の計算を実施し、その共晶反応による融点の低下を計算することができた。第一原理分子動力学では33種類のコードを調査し、VASPコードおよびWIEN2kコードを本事業で用いるものとして選定した。VASPコードを用いた第一原理分子動力学計算ではAl-Si, U-Fe, U-Zrの接触を計算し、文献や実験と同程度の拡散係数を得ることができた。Feの格子定数とヤング率の計算もおこない精度の良い計算ができることを確認した。また、WIEN2kコードを用いた計算では、U-Fe系状態図に現れる結晶構造について実験値と数%で一致する結果が得られた。

【研究開発項目5】
(3)MPS理論開発とコード開発
①理論開発
 東京大学でこれまで開発してきた粒子法の理論の整理し、構造解析では破壊モデルを、熱流動解析では熱伝導と相変化モデルを新たに整備することとした。また、格子法におけるC-CUP(CIP-Combined Unified Procedure)法(圧力のポアッソン方程式を修正することで非圧縮性と圧縮性を同時に計算することができるアルゴリズム)を参考にしつつ粒子法において圧縮性を考慮できる計算方法を開発し、1次元計算で実証した。また、固体粒子系とMPS法を連成させて解く方法を開発した。さらに、流体力学アルゴリズム、自由表面モデル、非圧縮性モデル、表面張力モデルに関して改良方法を提案した。

【研究開発項目6】
(3)MPS理論開発とコード開発
②コード設計
 基本設計の見直し、熱流体力学部と構造力学部の詳細解析、および構造材の物性についてCOMPASSコードに組み込むための定式化をおこない、(3)①で開発された圧縮性を扱う機能についても詳細設計をおこなった。なお、この設計に基づいてCOMPASSコードの開発を行った。

【研究開発項目7】
(3)MPS理論開発とコード開発
③並列計算手法
 並列計算にはOpenMP方式を採用することとした。OpenMPによる並列計算を具体的に実施し、その性能を測定したところ、例えば粒子数密度の計算において100万粒子で16CPUの計算により14.4倍の計算速度が得られ、並列計算の有効性が確認された。

【研究開発項目8】
(3)MPS理論開発とコード開発
④可視化手法
 汎用可視化ソフトウェアAVSを導入し、これを用いてボリュームレンダリングによる多成分多相の表示システムを開発した。基本的な機能は本システムで表現できると評価され、独自のツールは開発しないこととした。ただし、今後の検討事項として、多成分多相の挙動を把握するには立体視機能が有用であるとの提案がなされ、平成19年度以降にホログラフィーを検討することになった。

【研究開発項目9】
(4)SIMMER-III解析
①現行解析の問題点の摘出
 SIMMER-IIIに対して実施された第1期検証研究(5分野34テスト問題)および第2期検証研究(6分野)を調査し、現行解析の問題点を抽出し、COMPASSの解析に対する具体的なニーズを整理された。
  ・燃料ピンの破損・崩壊挙動における壁面への熱負荷および金属燃料
  ・溶融物質の沸騰プール挙動における熱伝達の素過程
  ・融体の固化・閉塞挙動における熱損失モデルの微視的過程
  ・壁面の溶融破損における壁面上に形成される燃料クラストの安定性
  ・デブリベッドの冷却性におけるセルフレベリング

【研究開発項目10】
(4)SIMMER-III解析
②既存試験と今後の試験の分析
 既存試験と今後の試験の分析を行い、COMPASS解析するにあたっての境界条件を与えるSIMMER-IIIの解析計画を作成し具体的な試験対象を選定した。選定した試験対象の解析は、(4)③で実施した。

【研究開発項目11】
(4)SIMMER-III解析
③SIMMER-IIIコードによる解析
 「炉心物質の分散・固化挙動」に対してまずGEYSER試験(ドイツのFzKで実施された融体浸入固化挙動試験)を解析し、燃料浸入長の計算結果は30%の精度で実験を再現した。
 CABRI-EFM1試験(フランスの試験炉CABRIを用いたFBR用の安全性炉内試験で、単一ピンの体系で流量低下の後に過出力を与えた試験)を解析し、主にFP(fission product)ガスを駆動力として溶融燃料を上下に排 出する挙動が計算結果として得られ、事象収束後の燃料配置は実験を良く模擬した。
 「溶融物質の沸騰プール挙動」に対してCABRI-TPA2試験(CABRI炉を用いた溶融炉心からスティールへの伝熱挙動の解明を目的にした試験)を解析した。
 燃料-スティール間の熱伝達を1/200程度に抑制すると圧力履歴が実験をよく再現することがわかった。「構造壁の破損挙動」ではSCARABEE-BE+3試験(フランスのSCARABEE炉を用いた37本ピン束における流量低下により構造壁の破損させた試験)を解析しナトリウムによる冷却効果の解析に今後改善課題が残されることが分かった。
 以上、これらのSIMMER-III解析の結果を用いて今後のCOMPASS解析における境界条件を与える知見を得ることが出来た。

【事業全体】を通して
 MPS法を用いた高速炉の炉心損傷事故の個別事象に対する詳細解析コード(COMPASS)の開発および検証は計画通り進展し、既に当初の目標である7項目の個別事象についても計画に従って解析に着手した。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
  • 粒子法を利用して高速増殖炉事故解析における詳細事象の評価手法を開発しようという画期的な取組みである。今後は、既存のSIMMER-IIIコードとの連携と分担を一層明確にし、研究推進することを期待する。

【研究開発項目1】MPS法による解析コードの開発と検証(MPS法による解析コードの開発)
  • CDA事象のうち、MPS法を用いて検証する個別事象は絞り込まれており、計画的に実施されている。今後は、解析コードが対象とするCDA事象または現象をよく確認しながら解析コードの開発を進めてもらいたい。
  • また、今後、MPS法を使ってCDA事象を検証する際、何をどこまで検証すればよいか、どういうことがわかれば実機の評価に適用できるかを明らかにしてもらいたい。

【研究開発項目2】MPS法による解析コードの開発と検証(MPS法による解析コードの検証)
  • 本項での主な指摘事項は、「研究開発項目1」と同じ。

【研究開発項目3】金属燃料の物性予測解析(CALPHAD法による金属燃料の共晶物性予測)
  • 予定通り進んでおり、このまま研究を推進することが適切と考える。
  • 金属燃料の物性については、様々なライブラリが整備されている。対象とするCDA事象は様々であるので、対象とする事象ごと、仕分けをきちんとしてもらいたい。

【研究開発項目4】金属燃料の物性予測解析(分子動力学法による共晶現象の局所メカニズムの解明)
  • 本項での主な指摘事項は、「研究開発項目3」と同じ。

【研究開発項目5】MPS理論開発とコード開発(理論開発)
  • 実用化のためには、有益な技術である。開発検討の範囲は広いがプロジェクト管理をきちんと実施して進めてもらいたい。
  • 特に、最近品質保証上の要求により、解析コードの品質管理およびユーザーに対する資質要求条件が重要になっている。許認可等を見据えて、開発管理と図書管理はきちんとしてもらいたい。

【研究開発項目6】MPS理論開発とコード開発(コード設計)
  • 本項での主な指摘事項は、「研究開発項目5」と同じ。

【研究開発項目7】MPS理論開発とコード開発(並列計算手法)
  • 本項での主な指摘事項は、「研究開発項目5」と同じ。

【研究開発項目8】MPS理論開発とコード開発(可視化手法)
  • 本項での主な指摘事項は、「研究開発項目5」と同じ。

【研究開発項目9】SIMMER-III解析(現行解析の問題点の摘出)
  • COMPASSで得られた結果が適切にSIMMER-IIIに反映されれば、炉心崩壊事故の各過程に対し、より高い精度が得られると考えられるので、COMPASSの解析結果を示し、結果をSIMMER-IIIの物理モデルにどのようにフィードバックするのか、その方法を具体的に検討し、評価内容と共に示してもらいたい。

【研究開発項目10】SIMMER-III解析(既存試験と今後の試験の分析)
  • 本項での主な指摘事項は、「研究開発項目9」と同じ。

【研究開発項目11】SIMMER-III解析(SIMMER-IIIコードによる解析)
  • COMPASSの解析結果のSIMMER-IIIへの反映方法や手順をより明確にしてもらいたい。

9.中間評価結果

  • 非常に難しい課題に取り組んでおり、達成されれば大きな成果が期待できる。
  • 炉心全体を解析するSIMMER-IIIコードとCOMPASSの連携と分担を一層明確にして研究を推進すると共にSIMMER-IIIコードの改良につながるような開発を進めてもらいたい。

10.総合評価

(期待以上の成果が見込め継続すべき)
(ほぼ期待通りの成果が見込め継続すべきだが、計画について一部調整の必要がある)
(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
(継続すべきではない)

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