7.これまでに得られた成果
【研究開発項目1】U, Pu選択的沈殿法の基盤技術開発(低配位性・低疎水性沈殿剤及びNCPによる沈殿条件の最適化検討)
1) 低配位性・低疎水性沈殿剤による沈殿条件の最適化
- 低配位性・低疎水性沈殿剤候補であるNBP及びNProPについて、1.5 M(M = mol dm-3)のUO22+を含む3 M及び5 M硝酸水溶液を用い、温度と沈殿剤/UO22+濃度比をパラメーターとして沈殿試験を行い、最適沈澱条件を検討した。その結果として、本U(VI)単独溶液での試験結果からの判断ではあるが、NBP, NProPを用いた第1沈殿工程の最適沈殿条件として、温度25℃, 硝酸濃度3 Mを選定した。
- FP金属イオンの除染性について、模擬物質(La(III), Pr(III), Sm(III), Nd(III), Ce(III), Ba(II), Sr(II), Zr(IV), Re(VII), Pd(II), Ru(III), Rh(III), Mo(VI))を用い、3 M硝酸と0.5 Mの沈殿剤を含む水溶液を洗浄剤として検討した。その結果、NBP, NProPを用いた沈殿処理における除染係数は、NCPを用いた場合より高く、特に、NProP系では、ほとんどの模擬FP金属イオンの除染係数が100を大きく上回っており、効果的な除染を実現できる見通しを得た。
2) NCPによる沈澱条件の最適化
- 第2沈殿工程用NCP沈殿剤の沈殿条件の最適化を図るため、第1沈殿工程からの液を想定し、NCP/UO22+濃度比と過剰NBPあるいはNProP量をパラメーターとして、沈殿挙動データを取得した。その結果、第2沈殿工程への供給液に第1沈殿工程の沈殿剤が混入しても、NCPによる沈殿処理に影響を及ぼさないとの結論を、また、NBP, NProP共存下でのNCPによる沈殿条件として、 [U(VI)] = 0.5−0.6 M, [HNO3] = 3 - 5 M, [NCP]/[U(VI)] = 2.0 - 3.0が適用可能との結論を得た。
3) Pu(IV)沈殿能に関する予備検討
- NBP, NProP, NCPによるPu(IV)の沈殿性予備検討を行うため、U(IV)をPu(IV)の模擬化学種として、硝酸水溶液中のU(IV)(0.15 M)のNBP, NProPによる沈殿性を調べた。その結果、NBPはU(IV)を緑色のオイル状物質として沈殿させるが、NProPは沈殿を形成しないことを見出した。
【研究開発項目2】 U, Pu選択的沈殿法の基盤技術開発(新規高選択・制御性沈殿剤等の開発)
1) 新規低配位性・低疎水性沈殿剤及び高配位性・高疎水性沈殿剤の開発
- 1.5 MのUO22+を含む硝酸水溶液を用い、低配位性・低疎水性沈殿剤候補として選定されたN-iso-ブチル-2-ピロリドン (NiBP), N-secブチル-2-ピロリドン(NsecBP), N-tert-ブチル-2-ピロリドン(NtBP)による沈殿試験を行った。その結果、これらピロリドンが、微粉末状沈殿を迅速かつほぼ定量的に生成することを明らかにした。
- 高配位性・高疎水性沈殿剤候補と選定したN-(4-メチルシクロヘキシル)-2-ピロリドン, N-n-ペンチル-2-ピロリドン(NMCP), N-n-ヘキシル-2-ピロリドンによる沈殿試験を行った。その結果、UO22+を含むオイル状物質を生成し、微粉末状沈殿を生成しないことから、沈殿剤としては適さないことが判明した。ただし、本試験結果から、今後の方針として、疎水性がNCPより高くNMCPより低いピロリドン誘導体の合成を目指すこととした。
- NMR装置を整備し、合成した沈殿剤の構造解析に適用できることを確認するとともに、各種新規沈殿剤の構造及びそれらのUO22+錯体の構造を検討した。その結果、沈殿剤の疎水性だけでなくUO2(NO3)2(NRP)2錯体(NRP:ピロリドン誘導体)の結晶中でのパッキングのし易さもUO22+の沈殿性に影響を及ぼすことを明らかにした。また、NBP, NProPに加えてNiBPが、第1沈殿工程の有力な沈殿剤候補になりうるとの見通しを得た。
2) 新規化合物による吸着処理法の開発
- 不溶性のポリビニルピロリドン(PVPP)の吸着能試験を実施した。その結果、硝酸水溶液中のUO22+を効率よく吸着することが判明し(吸着平衡時間:1時間程度, ウラン平衡吸着量:0.6 mmol/PVPP)、また、PVPPのUO22+に対する吸着能は、他の金属イオンや沈殿剤(第2沈殿工程からの残留NCP)が共存しても影響を受けないことから、第2沈殿工程からのろ液処理用の有望な吸着剤となりうるとの見通しを得た。
【研究開発項目3】U, Pu選択的沈殿法の基盤技術開発(沈殿剤の耐久性及び再利用法の検討)
1) 耐放射線性及び耐熱性の検討
- 高濃度溶解液を想定した3M硝酸溶液中での候補沈殿剤(NBP及びNProP)のγ線照射試験を行った。その結果、照射されたNProP, NBPのUO22+に対する沈殿能の低下率は、0.5MGyではほぼゼロ、3MGyにおいて約40〜50%であり、二つの沈殿剤が、実プロセスへの適用に十分な耐放射線性を有することを確認した。また、これら沈殿剤のウラニル沈殿のγ線による影響も非常に小さいことがわかった。
- NBP及びNProPの耐熱性試験を25〜75℃の範囲で行った。その結果、加熱によりむしろ沈澱能が増加(75℃での試験では10日以内に沈殿率が約2倍に増加)することがわかった。
- NProP, NBP共にNCPより耐放射線性は高いが、耐熱性において劣ることを確認した。
2) 再利用法の検討
- NBP及びNProPのU沈殿物を沈殿剤自身もしくは他の溶媒へ溶解した後U過酸化物へ転換する反応等を利用し、遊離した沈殿剤を回収する方法を検討するため、U(VI)-NProP及びU(VI)-NBP沈殿の各種溶媒への溶解性を検討した。その結果、極性溶媒には室温でも比較的容易に溶解するが、その溶解性はU(VI)-NBPよりU(VI)-NProPのほうが高いことがわかった。また、U(VI)-NProPのギ酸溶解試料に30%過酸化水素水を添加したところ、99.9%の転換率が得られたことから、再利用法の候補として選定した。
【研究開発項目4】U, Pu選択的沈殿法の基盤技術開発(TRU核種の沈殿性検討)
1) 沈殿物構造の検討
- Pu(VI)-NCP及びPu(IV)-NCP沈殿物の赤外吸収スペクトルの測定を行い、本方法が錯形成の有無の判断に利用できることを確認した。また、X線回折分析のためのPu沈殿物の単結晶化の検討を行い、Pu(VI)-NCP錯体及びPu(IV)-NCP錯体の結晶と判定できる析出物を調製できたことから、Pu沈殿物を単結晶化しうるとの見通しを得た。
2) 低配位性・低疎水性沈殿剤によるPuの沈殿性検討
- Puのみを含む3 M硝酸水溶液でのNBP, NProPによるPu(IV)及びPu(VI)の沈殿性試験を行った。その結果、Pu濃度の低い溶液(0.05 M程度)では、過剰量のNBP, NProP([NBP]/[Pu(IV)] = 5, [NBP]/[Pu(VI)] = 20, [NProP]/[Pu(IV) or Pu(VI)] = 20) を加えても沈殿が形成されないが、Pu濃度が高ければ(0.1 M程度)過剰量のNBP, NProP ([NBP]/[Pu(IV) or [Pu(VI)] = 2, [NProP]/[Pu(IV) ] = 5 or [NProP]/[Pu(VI)] = 2])があれば、沈殿が形成されることがわかった。Puに対する沈殿能の順は、NCP>NBP>NProPである。
- 第1沈殿工程を想定した条件でのNCP, NBP及びNProPによるU(VI)-Pu(IV)共存溶液での沈殿試験を行った。その結果、低配位性・低疎水性のNBP, NProPであってもU(VI)の沈殿にPu(IV)が少量共沈するが、その程度はNCPに比べて低く、撹拌継続時の再溶解もNBP, NProPの場合の方が効率的に進行することがわかった。また、U濃度を1.5Mに増加させることによる障害はほとんど見出されず、NBP或いはNProP適用による第1沈殿工程の効率化に見通しを得た。
- Pu沈殿物の安定性試験(α線照射の観点)として、Puを含む溶液から生成したU(VI)-NCP沈殿或いはU(VI)-Pu(IV)-NCP沈殿からのU溶出速度を求めた。その結果、U(VI)-NCP沈殿で0.87 mmol MGy-1、U(VI)-Pu(IV)-NCP沈殿で0.22 mmol MGy-1となり、4.0 kGy h-1でのγ線照射における結果との比較から、線量率依存性の問題があるものの、α線照射の影響はγ線照射の影響と根本的に違いがないことが明らかとなった。
【研究開発項目5】高度化沈殿システムにおける工学的技術開発(沈澱システムの検討)
1) 新規高選択・制御性沈殿剤の工学的適用性検討
- 第1及び第2沈殿工程で想定される沈殿条件(U濃度:1.5M及び0.75M, 沈殿剤/Uモル比:1.4〜2.0)において、NBP及びNProPのバッチ沈殿試験を行った。その結果、沈殿生成挙動や固液分離挙動は良好であり、得られた物量, 物性データからも連続試験が行える可能性を確認した。
- バッチ沈殿挙動に関する物量や物性データ取得によるプロセス検討から、NBPとNProPは、第1及び第2沈殿工程で想定される沈殿条件において、NCPに比べて沈殿スラリー濃度が低くろ液量が多い、沈殿含水率が低いこと等から、沈殿操作がし易く優れていることを確認した。
- 実機と同タイプの試験装置を用いた連続沈殿試験を原料U濃度:1.5と0.75 M, 沈殿剤/Uモル比:1.4と2.0, 槽内反応時間:約0.4と約0.8時間に設定し、試験を実施した。その結果、何れの設定条件でも2〜4時間の連続沈殿操作が可能であり、排出されるスラリーは、U濃度, 沈殿剤/Uモル比, 原料流量(槽内反応時間)の設定に見合ったU沈殿率, スラリー流量, スラリー固体濃度, 液中U濃度, 硝酸濃度を示し、連続沈殿操作が滞りなく良好に行われることを確認した。
- 連続沈澱試験で得られたU(VI)-NBP及びU(VI)-NProP沈殿スラリーを用い、実機を想定した固液分離装置による分離試験を行った。その結果、本装置の代表的な条件で分離された沈殿は、含水率が約10%程度、分離液中の固体濃度が約0.02%程度であり、本装置の沈殿スラリー処理への適用性が良好であることを確認した。
- 工学的観点からも、NBP, NProPの第1沈殿工程への、またNCPの第2沈殿工程への適用性が確認できた。
【研究開発項目6】高度化沈殿システムにおける工学的技術開発 (燃料化検討)
1) 燃料化適用性基礎試験
- U(VI)-NBP及びU(VI)-NproP沈殿物のボート炉を用いた熱分解試験を温度, 雰囲気(空気, 不活性雰囲気)をパラメーターとして行った。その結果、両沈殿ともに、空気雰囲気, 500℃以上の条件で、残留炭素濃度を数1,000 ppm程度に低減しうることが確認され、転換工程の基本的な運転条件は、空気雰囲気で500〜800℃が適当であることを明らかにした。
- 焙焼還元−成型−ペレット化(焼結)の一連ペレット化試験を行った。その結果、U(VI)-NBP沈殿及びU(VI)-NProP沈殿から調製したUO2は、問題なくペレットに成型・焼結することができ、FBR燃料仕様としての焼結密度約80〜90%のペレットを製造しうることを確認した。
- 焼結ペレット中の炭素濃度が約100 ppm程度との結果を得たが、軽水炉核燃料級のUO2粉末における炭素濃度の上限値(100 ppm)を考慮すると、脱炭素には脱ガスを促進する熱分解過程や焙焼還元過程での粉砕効果の最適化が必要であることが明らかとなった。
- ガスクロマトグラフ質量分析装置と熱天秤を用い、U(VI)-NBP及びU(VI)-NProP沈殿の熱分解ガスの分析試験を行った。その結果、150〜250℃の熱分解領域で発生する分解物は、空気雰囲気及びN2雰囲気ともに、沈殿剤本体, 沈殿剤のピロリドン環と側鎖の分解生成物, 沈殿剤に酸素が付加した化合物であることが確認された。また、250〜350℃の熱分解領域では、NOガスの確認から沈殿中の硝酸根の分解が起っていること、350〜500℃, 空気雰囲気でのCO2の確認から、微量残留炭素の酸化反応が起きていることが示唆された。
- 現状考えられる燃料化工程として、沈殿剤の熱分解工程(〜500℃), 微量残留炭素除去焙焼工程(〜800℃), UO2への水素還元工程の3段階とすることが適当であることがわかった。
2) 酸化物転換装置システム試験
- 実機酸化転換装置システムの装置方式を検討し、スクリューやローターを内部に持つインターナルミキサー型混練機を候補とし、試験装置としてニーダー型熱分解装置を選定した。
- 本装置によりU沈殿を用いた試運転を行い、U(VI)-NBP及びU(VI)-NProP沈殿から粉体状の熱分解生成物を得ることが可能なこと、生成物の表面観察等から脱ガス効果等を確認した。また、ニーダー型装置で得られたU(VI)-NBP及びU(VI)-NProP沈殿の何れの熱分解生成物の残留炭素量は1,000 ppmのオーダーであり、静止系の値と比べて1/2程度まで低減されることから、今後、操作条件の最適化により、目標とする残留炭素濃度が得られる可能性が高いことが確認された。
【研究開発項目7】プロセス検討(主工程等の検討)
1) 高度化沈殿法による再処理主工程・燃料化工程の検討
- 各種試験結果を基に、ブロックフロー図, プロセスフロー図, 物質収支図の構築を行い、プロセス簡素化効果を検討した。その結果、溶解液の重金属濃度を1.5Mと高濃度化することにより、沈殿工程における精製効果並びに沈殿槽及び沈殿分離機の操作性を維持しつつ、第1沈殿工程の機器類(沈殿槽, 槽類)の小型化が実現できること、また、第2沈殿工程前のPu酸化工程の排除, 第2沈殿工程前での溶液濃縮による第2沈殿工程への供給溶液の重金属濃度の調整により、第2沈殿工程以降の工程数の減少及び機器類の小型化が実現できることがわかった。
- 年間処理量, 操業形態に基づき、再処理及び燃料化工程を構成する各プロセスの系列数を検討した。その結果、主なプロセス設備の系列数は、第1沈殿工程の沈殿槽・沈殿分離機が3系列、第2沈殿工程の沈殿槽・沈殿分離機が2系列、U系沈殿焼成の酸化U系熱分解炉, 焙焼炉, 還元炉がそれぞれ1系列, 1系列, 2系列、Pu/U系沈殿焼成のMOX系熱分解炉, 焙焼炉, 還元炉がそれぞれ1系列, 1系列, 2系列となることがわかった。特に、処理量の多いU系沈殿焼成の各機器については、臨界安全の核的制限値を適切な前提条件により設定し検討した結果、MOX系と同じ系列数で構成可能となることが明らかとなった。また、主要機器として、第1及び第2沈殿工程では連続式円筒形状沈殿槽と連続式遠心沈降機を、U系沈殿焼成及びPu/U系沈殿焼成では連続式ロータリーキルンを用いることとし、各機器の型式・大きさ等の機器仕様及び基数をまとめた機器リストを作成することができた。
2) 高度化沈殿法による再処理付帯工程の検討
- 高度化沈殿法による再処理プロセスに特有の付帯設備である沈殿剤再利用プロセス, 沈殿廃液からの沈殿剤分離プロセス及び沈殿廃液からのU, Pu回収プロセスについて、主工程のプロセス条件に基づき、採用するプロセスの検討を行った。その結果、沈殿剤再利用に関しては、U沈殿を過酸化ウラン沈殿に置き換え沈殿剤を遊離させるプロセスとU沈殿を1-メチルイミダゾールやギ酸等に一旦溶解してから沈殿を置き換えるプロセスが候補となったが、それぞれ一長一短があり今後の検討が必要であることを確認した。沈殿廃液処理では、まずU, Pu回収を行い、その後に沈殿剤粗分離と沈殿剤の分解処理を行うプロセスフローが効率的であり、U, Pu回収にはPVPPを用いた吸着プロセス, 沈殿剤の粗分離には膜分離法を主とするプロセス, 沈殿剤の分解処理には過酸化水素とオゾンを併用した促進酸化プロセスが、付帯設備として有用であることを明らかにした。
- 再処理主工程からの廃液処理工程について、廃液種類別の分類を行い、採用するプロセスの検討を行った。その結果、再処理主工程からは沈殿廃液と第2沈殿工程前の溶液濃縮での凝縮液の2種類の廃液が発生するが、現行湿式再処理法での廃液処理工程を基に、前者は高レベル系廃液処理として濃縮缶で溶液濃縮を行い、濃縮分はガラス固化し蒸発分は蒸発プロセスと蒸留プロセスを組み合わせて硝酸回収を行う方法を採用することとした。後者は低レベル廃液処理として蒸留を行い、濃縮分は硝酸回収系の原料へリサイクルし蒸発分は海洋放出系へ送るプロセスを採用することとした。
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