原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集
ゲル状中性子遮へい樹脂材の高耐熱化に関する研究開発
(研究代表者)助川篤彦 核融合研究開発部門 研究副主幹
(再委託先)株式会社間組
1.研究開発の背景とねらい
革新的原子炉では、原子炉圧力容器周辺や配管部などの複雑形状部への設置が可能な追加型遮へい材料の使用が有効手段の一つである。その例として、可搬型への転用が可能な追加遮へい対策(現場施工後、永久的に固定して使用するのではなく、衝立のように移動が容易な遮へい方法がある。そこで本事業では、従来の耐熱中性子遮へい樹脂材では難しかった複雑かつ狭隘部に適用可能なゲル状中性子遮へい樹脂材を開発することを目的とする。本樹脂材の開発においては、耐熱性の向上と複雑形状部への適用を可能とするため、適切な触媒を選定し、加熱技術のみで母材と添加剤との化学結合を改善し、耐熱性能を向上することを目指す。最終的には、耐熱性を有するゲル状中性子遮へい樹脂材の製作・加工技術を開発する。加えて、高温環境下での樹脂材の使用を鑑み、実用化に向けて必要不可欠な長期間の耐熱性及び耐久性に関する基礎データの取得を実施する。
平成19年度の実施内容は、これまでの中性子遮へい樹脂材の開発過程を考慮し、複雑形状部に適用可能なゲル状中性子遮へい樹脂材(目標耐熱温度:.250℃)を開発する。平成19年度の遮へい材の製作は、中性子に対して減速能の大きな水素成分を含んだ開発レジン(母材)、変性レジン(硬化材)と中性子吸収物質を混練することによりゲル状遮へい材を製作する。更に、ゲル状中性子遮へい材を加熱成形することにより耐熱性の改善を目指す。なお、平成19年度の遮へい樹脂材については最終的に固化状(硬質ゲル)となる。本事業の2年目にあたる平成20年度の遮へい材の製作は、平成19年度とは異なりゲル状中性子遮へい材を室温成形することにより耐熱性の改善を目指す。最終的に、ゲル状遮へい材(可撓ゲル)を製作する計画である。
硬質ゲルは、樹脂を利用した放射線遮へい体として広い応用範囲が期待され現在実用化が進められている。硬質ゲルについては、機械強度を有していれば一部構造体としての利用が可能となり、コンクリートに代表される従来の大がかりな遮へい構造に比べて、大幅に遮へい構造を合理化できることが期待される。一方、可撓ゲルは、配管周辺のストリーミング防止の本来の遮へい目的と同時に振動吸収材としての役目を併せもつことが期待されるため、従来にはなかった遮へい構造の簡素化への道を拓くことが可能となる。
硬質ゲルと可撓ゲルは、個々の特徴・有意性を十分に鑑み、原子力施設の用途に合わせた使用方法により、より適切な遮へい体としての役割を発揮することが考えられる(適材適所での利用)ので、両者の研究開発の優先度に差はないものと判断する。
2.研究開発成果
硬質ゲルは母材、硬化材と中性子吸収物質で構成される。各素材の選定ではこれまでの知見 [1-2]と作業性や粘性等を考慮し、MSDS(Material Safety Data Sheet:原料の化学物質の性状及び取扱いに関する情報)等から樹脂原料を選定した。選定した原料の混合試験を行い、ガラス転移温度が目標値の250℃に近い、母材(多官能エポキシ樹脂)、硬化材(脂環式二塩基酸無水物)、中性子吸収物質(炭化ホウ素)の組合せを試作に用いるゲル状樹脂材とした。試作は型枠を製作し、上記原料を配合して型枠に流し込み、加熱技術のみで硬化させる方法で高耐熱化を試みた(図1)。その結果、硬質ゲルのガラス転移温度(耐熱温度)は、320℃となることを熱重量・示差熱同時分析法により確認した(最高到達温度は323℃)。長期耐熱性試験では、真空中で(<0.1MPa)〜250℃定常状態下(12週間)における樹脂の重量変化を測定した(図2)。12週経過した時点では、200℃の試験で約16%の重量減少で、重量変化率に飽和傾向が見られない。一方、250℃の試験では約27%の重量減少で、7日で重量減少率に飽和傾向が見られた。重量減少の要因は、真空昇温脱ガス測定により、脱ガスの成分分析を行った結果、主に水素、炭素、メタン等の脱ガスを確認したため、水素成分、炭素成分の脱ガスが重量減少の主要因と考えられる。しかし、中性子吸収効果のあるホウ素化合物の脱ガスは検出されていない。水素成分の減少に伴う中性子遮へい性能に及ぼす影響は平成20年度に調査する予定である。
図1 中性子遮へい樹脂(硬質ゲル)
図2 硬質ゲルの長期耐熱耐久試験結果
図3 中性子遮へい樹脂(可撓ゲル)
一方、可撓ゲルは硬質ゲルと同様に母材、硬化材と中性子吸収物質で構成される。これまでの知見を応用させて母材(ポリアミドアミン系樹脂)、硬化材(脂肪酸系エステル樹脂)、中性子吸収物質(炭化ホウ素もしくは水酸化リチウム)の組合せによるゲル状樹脂材を試作した[3]。試作は型枠を製作し、上記原料を配合して型枠に流し込み、定温で硬化させる方法もしくは可撓可能な粘度で硬化させる方法で高耐熱化を目指す。樹脂材の粘度を制御して、室温で硬化させる成形技術法の開発に成功した(図3)。
3.今後の展望
開発樹脂材の目標性能については、開発する硬質ゲル(加熱技術のみで硬化)、可撓ゲル(室温で硬化)共に、目標とする耐熱温度は〜250℃とする。また、樹脂材の耐用年数については、革新炉(高速炉)の定期点検の実施目安期間となる26ヶ月とする。
樹脂材の製作方法については、実用化に向け、工場等での量産可能な硬質ゲルと現場施工が可能な可撓ゲルを加熱成形もしくは室温成形のみで製作できることを目指す。硬質ゲルについては、機械強度の目標性能を、ポリエチレンの強度を上回るよう、引張強度が10 MPa以上、圧縮強度が30 MPa、そして、曲げ強度が50 MPa以上とする。可撓ゲルについては、樹脂材の特性から機械強度の目標値を設定しないものとする。
また、これまでに実施していない長期間の耐熱耐久試験と耐放射線性試験を実施した上で、各試験結果を評価し、用途にあった設計指針を明らかにして、放射線遮へい材料の高度化、実用化の見通しを立てる予定である。
4.参考文献
[1] K. Okuno, “Neutron Shielding Material Based on Colemanite and Epoxy Resin“, Radiation Protection Dosimetry,115, No.1-4, 258-261 (2005)
[2] A. Morioka et al, “ Development of 300℃ heat resistant boron-loaded resin for neutron shielding”, J. Nucl. Mater., 367-370, 1085-1089 (2007)
[3] K. Ueki et al, “ Systematic Evaluation of Neutron Shielding Effects for Materials”, Nucl. Sci. Eng., 124, 455-464 (1996)