原子力システム研究開発事業

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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

ナトリウム冷却炉用高クロム鋼配管溶接部適正設計施工手法の開発

(受託者)国立大学法人大阪大学
(研究代表者)望月正人 大学院工学研究科 准教授

1.研究開発の背景とねらい

 ループ型ナトリウム冷却高速増殖炉の実用化に向けた研究開発において,冷却系構造材料として,原型炉であるもんじゅで用いられていたオーステナイト系ステンレス鋼の代わりに高クロム鋼を用いることが検討されている.この高クロム鋼は,従前のステンレス鋼に比べて高強度・低熱膨張を特徴としている.高クロム鋼を冷却系構造材料として実用化することで,冷却系構造材料の熱膨張を抑制することにより熱応力を緩和できる.その結果,熱応力による破損を防ぐ目的で配管に多数配置されていたエルボの数を減らすことができ,配管総長を大幅に短縮することが可能となる.こうした配管総長の短縮は,経済性の向上のみならず,とかく問題となることの多い「溶接部」を少なくすることによって信頼性の向上をも図るといったメリットをもたらす.
 しかし、高クロム鋼の実用化に向けて解決しなければならない課題として,溶接を施した際の溶接熱影響部(HAZ)における軟化現象がある1).これは,高クロム鋼を用いた溶接継手において,溶接HAZが軟化してしまい母材本来の静的強度が溶接継手において確保できないというものである.これまでの発電プラントの損傷事例を見ても,溶接部を起因とすることが非常に多いことからも,こうした問題を解決することは非常に重要であることが容易に理解できる.
 本事業では,ループ型のナトリウム冷却高速増殖炉の配管材料への適用が有望視されている高クロム鋼の溶接に際し,溶接継手の熱影響部(HAZ)における強度が低下してしまう軟化現象を適切に評価することにより,HAZでの軟化度を合理的に考慮した溶接設計施工手法を開発することを目的とし,研究開発を進めている.

2.研究開発成果
図1
図1 CCT特性線図(保持温度900℃)

(a) 溶接熱サイクルに伴うHAZの軟化挙動基礎特性の把握
 溶接熱サイクルに伴う高クロム鋼溶接部におけるHAZの軟化挙動の基礎特性を調べるため,各冷却線のミクロ組織分率及び硬さを包含した連続冷却変態曲線(CCT)特性線図を2種類の保持温度条件について作成した.また,引張強さ近傍領域においても高精度な測定が可能な精密万能試験機を用いて引張試験及び曲げ試験を実施するとともに,試験後の試験片の表面観察により高クロム鋼の機械的特性データを取得した.
 CCT特性線図については,保持温度を900℃と1350℃に変化させた状態で,冷却線ごとのミクロ組織分率及び硬さを包含した変態曲線を取得した.得られたCCT特性線図の一例を保持温度900℃の場合について図1に示す.CCT特性線図中において,Mはマルテンサイト,Bはベイナイト,Aはオーステナイトを示しており,各冷却曲線下端の○で囲まれた数字がその冷却速度におけるビッカース硬さである.また,CCT特性線図に記載した組織分率は,それぞれのフォーマスタ試験片の組織写真を用いて計測したものである.
 引張試験及び曲げ試験については,当該材料の材料組織や応力ひずみ線図ならびに破壊靭性に代表される機械的性質の基本データを取得した.引張試験により得られた応力ひずみ線図の一例として,鋼材圧延方向から採取した3本の試験片の応力ひずみ線図を図2に示す.また,曲げ試験によって得られた試験結果として,鋼材圧延方向から採取した3本の試験片の荷重−クリップゲージ開口変位を図3に示す.本試験により得られた荷重−クリップゲージ開口変位関係は、本鋼材が延性破壊を呈していたことを示している.

図2
図2 応力ひずみ線図(引張負荷)
図3
図3 荷重変位線図(曲げ負荷)
図4
図4 冷却時間とビッカース硬さの関係

(b) 数値解析用CCT特性の数式化
 次に,溶接熱サイクルに応じた組織変化挙動を数値解析で取り扱うことができるよう,前項で取得したCCT特性を数式化した.数式として整理した結果の一例を図4に示す。この図は,横軸に800℃から500℃までの冷却に要する時間t8/5を,縦軸にビッカース硬さをプロットしたものである.本研究では冷却時間範囲を多層多パス溶接において生じる可能性のある冷却時間範囲に限定しているため,冷却時間と硬さの関係を1次式で近似することができると考え,得られたt8/5とビッカース硬さの関係式を次のように導いた.
  HV = 493.6 - 0.1147t8/5 ・・・・・(1)

(c) 溶接データベースの調査
 溶接施工条件や溶接冶金,溶接力学に関するデータベースの文献調査を実施した.その結果,溶接部が軟化する現象について,種々の文献データから溶接冶金学的な考察を踏まえた溶接力学を基盤とした強度評価の具体的な取り扱い方について整理することができた.
 溶接冶金学的な考察からの方針としては,
・溶接HAZにおいて発生する軟化現象を溶接冶金学的に理解するためには,まず元の鋼の強化機構を把握することが重要である.
・対象とする鋼材の強化機構が溶接によってどのような過渡熱サイクルを受けることで失われるのか,またその際に他の強化機構が発生しないか,という点を十分に把握しておく必要がある.
 また,溶接冶金学的な考察を踏まえた溶接力学的な考察からの方針としては,
・溶接継手において低強度部が存在したとしても,塑性拘束効果によりその継手の強度を母材並みの強度に保つことが可能な条件が存在する場合がある.
・溶接継手における塑性拘束現象のもっとも支配的なパラメータは,低強度部厚さの継手厚さに対する寸法比,すなわち相対厚さである.
・溶接HAZ軟化部を有するような継手の強度予測において、熱弾塑性解析に代表される数値シミュレーションを用いた解析的検討は非常に有効な手段である.

3.今後の展望

 これまでの研究開発で得られた基本的特性を用い,今後,溶接HAZでの軟化度を合理的に考慮した溶接設計施工手法を開発していく.

4.参考文献

1) 高温構造化設計高度化研究,平成15年度共同研究報告書,JNC TY9400 2004-025 (2004).


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