原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集
高クロム鋼を用いた1次冷却系配管に適用する流量計測システムの開発
(研究代表者)岩田東 プラント設計部電気計装グループ
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構、国立大学法人筑波大学
1.研究開発の背景とねらい
ナトリウム冷却炉実用化概念は、1次冷却系流量計測システム(以下、流量計測システム)に関して次のような特徴(主なもの)を有する。
- 経済性を高めるため、熱膨張率が低く強度に優れる高クロム鋼(磁性体)を採用して配管口径の約5 倍まで直管部長さを短縮し、1 サイクルの運転期間は18〜26 ヶ月と長期間とする。
- ナトリウム漏えい時の安全性及び稼働性向上のため、内管と外管の間に不活性ガス(窒素)を封入した2重管構造とする。
- ナトリウム漏えいの可能性低減のため、ナトリウム配管に貫通部や内部突起物を極力設けない。
流量計測システムは、安全保護系として炉心の冷却異常を検出して原子炉を緊急停止させるという重要な機能を持つ。また、ナトリウム冷却炉は原子炉出力に応じて炉心冷却流量を変える運用とすることから、流量監視機能も要求される。
本事業では、直管部が短い高クロム鋼の大口径ナトリウム配管に適用する安全保護系流量計測システムに適合する方式と考えられる超音波伝搬時間差・多測線方式流量計測システムについて、センサ、遠隔交換機構、信号処理装置の開発及び測線数最適化検討を行い、実機に適用するシステムの仕様、有効性及び安全保護系適用への課題の解決方策を検討する。
2.研究開発成果
(1) 開発の概要
開発を進める流量計測システムの概念及びセンサ設置場所を図1 に、開発要件を表1 に示す。
センサは、プラント運転中は遠隔交換機構により530℃に達する可能性のある1次主冷却系低温側配管に押付ける。圧電素子はこの高温に十分耐える実績を持つニオブ酸リチウム製とする。シュー(くさび)は、圧電素子から発生する超音波を、安全保護系の多重化、相互独立要求を満足するセンサ配置が可能となる角度で、ナトリウム中へ効率よく入射でき、広い温度範囲で圧電素子と安定な接合を維持できる材料とする。カプラントは、遠隔交換に適合するよう、固体で超音波伝搬効率に優れる材料とする。
センサ遠隔交換機構は、配管周り構造及び建屋内配置に適合するものとする。
信号処理装置は、直管部が短いことから偏り及び乱れが比較的大きいと予想される流れに対して計測性能要求を満足するのに必要な測線数(センサのセット数)、それに対応する信号処理回路数並びに信号処理性能を備えるものとする。
本事業の主要な開発課題を表2、開発スケジュールを表3 に示す。
(2) 開発成果
a.センサ
平成19 年度までに、開発のベースとなる基本構造の検討に基づき、要素レベルでの試験による評価、確認が必要な部位の摘出、主要な部位の要素試験体の製作、試験を実施し、所期の試験結果を得た。センサの構造と要素試験結果の概要を図2 に示す。また、要素試験結果に基づきセンサ(単体)試験並びにセンサ・遠隔交換機構(組合せ)試験用センサ試験体の基本設計図を作成した。
平成20 年度は、現在、センサ試験用試験体製作に向けて材料手配中である。
b.センサ遠隔交換機構
平成19 年度までに、開発のベースとなる基本構造の検討に基づき、センサの配管への押付機構として複数の方式の比較検討から有望と判断した皿バネ方式及びベローズ(ガスバネ)方式2 案の要素試験体の製作、試験を実施し、停止位置精度、押付均一度、傾き角度精度、押付力安定度に係る全ての性能目標を満足するベローズ方式を選定した。センサ遠隔交換機構の配管周りの構造概念を図3 に示す。センサ交換は、遠隔交換機構の建屋内配置、交換時間の短縮などを考慮して一つの配管径方向断面上のセンサ(最大8 個(8 測線に対応))を一括で行うものとした。また、要素試験結果に基づきセンサ・遠隔交換機構試験用遠隔交換機構試験体及びセンサ・遠隔交換機構試験体の基本設計図を作成した。
平成20 年度は、現在、遠隔交換機構試験体製作に向けて材料手配中である。
c.信号処理装置
平成19 年度までに、典型的な偏り及び乱れの大きな流れにおける超音波データを取得する基礎水試験、ナトリウム中での超音波減衰特性データを取得するナトリウム試験、並びに、実用化概念とほぼ相似の流況の得られる既存のポンプ組込型中間熱交換器試験装置を用いる水流動試験での超音波データ取得、及び信号処理手法開発、検証に用いる信号処理装置試験体を製作するとともに、基礎水試験体の製作、試験を実施してその結果を信号処理装置試験体の仕様に反映し、測線数増加、計測精度の向上及び信号処理時間の短縮を実施した。信号処理装置試験体の仕様を図4 に示す。また、ナトリウム試験に向けてナトリウム試験体を製作した。
平成20 年度は、現在、ナトリウム試験体の既存ナトリウム循環装置への設置を完了し、ナトリウム試験の準備中である。また、水流動試験により得られた一部のデータに基づき流量出力変動を抑制するための信号処理手法(多測線数処理、超音波伝搬時間差計測値変動抑制のためのフィルター処理)並びに信号処理装置試験体の改良について検討中である。
d.測線最適化
平成19 年度までに、水流動試験の製作、据付を実施した。また、最適な測線数を求めるための解析評価手法を開発し、部分的にではあるが水流動試験に係る予測解析に適用した。その結果、目標の直線性±2%FS 以下を満足できる可能性のあることが分かった。
平成20 年度は、現在、水流動試験の準備中(一部データを取得)である。また、信号処理装置試験体の検証に必要な測線数設定に向け、これまでに実施した流動解析の結果に測線数の最適化を行う手法を適用して解析検討を実施中である。
e.まとめ
平成20 年9 月末現在ほぼ計画通り進捗し、所期の成果を得ている。
3.今後の展望
センサ及び遠隔交換機構は、平成21 年度までに、センサ単体で主に温度サイクルに対する耐久性、センサと遠隔交換機構を組み合わせてセンサ交換及び高温下でのセンサ押付機能について成立見通しを得、実機向け仕様を明確にし、安全保護系適用への課題の解決見通しを示す。
信号処理装置は、平成21 年度までに水流動試験による超音波流量計出力信号データ及びナトリウム中での超音波の減衰特性データをもとに改良を図り、実機向け仕様を明確にし、安全保護系適用への課題の解決見通しを示す。
測線最適化検討では、平成21 年度までに水流動試験による流況可視化データ及び超音波流量計出力信号データに基づき、最適な測線数を求めるための解析評価手法を検証する。
表1 ナトリウム冷却炉1次主冷却系流量計測システムの開発要件
表2 主要な開発課題
表3 本事業の開発スケジュール
図1 流量計測システムの概念
②ダンパは無くとも信号減衰特性が良好のため、ダンパ非設置
③拡散接合による圧電素子とシューの接合性(製作性)、高温特性、耐温度サイクル特性は良好
④カプラントは、金との比較により、信号伝送性能が上回り、配管への残留が少ない銀(シューと同材)を採用
⑤交換機構との取合条件であるセンサ押付け時0.1°の傾きは伝音特性上問題なし
⑥シュー(銀)及び配管(改良9Cr鋼)材料の温度に対する音速データを取得
図2 センサの構造と要素試験結果の概要
図3 センサ遠隔交換機構の配管周りの構造概念
図4 信号処理装置試験体の仕様