原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集
高機能代替流体による高速軽水炉燃料の熱的限界予測手法の開発
(研究代表者)森 昌司 大学院工学研究院 准教授
(再委託先)株式会社東芝
1.研究開発の背景とねらい
原子炉燃料の開発においては,高温高圧の実機条件下で性能試験を行い,改良を繰り返すことが現状では必須となっている.しかしながら,この方法は高温高圧試験のため莫大なコストと時間を要する.そこで本事業では,高速軽水炉の開発のため,高温高圧の実機燃料内の気液二相流動を高機能代替流体(エタノールとエアコンガスHFC134a)により常温低圧下において再現し,それから得られる液膜データとサブチャンネル解析を組み合わせることで,除熱性能の高い稠密燃料の開発を格段に効率化する手法を開発する.
2.研究開発成果
作動流体には,主要な物性値が,表1に示すように高温高圧下の水,蒸気と同程度である液体(エタノール)と気体(HFC134a)を用いた(実験圧力: 0.7MPa,実験温度:40℃).図1(a),(b)に液膜流量を計測するテストセクションの概略図を示す.供試管の内径はいずれも5mmであり,低減速スペクトル炉の等価水力直径を考慮して決定した.スペーサ有り,無しの場合に関して,HFC134aガス-エタノール系および窒素ガス系において液膜流量を計測した.図2は,スペーサ形状詳細を示し,内径2.9mm,外径3.6mm,軸方向長さ25mm,スペーサとφ5の単管内面とのクリアランスは0.7mmである.スペーサ設置位置は気液混合部から下流へ1200mmの位置とした.図3は,本実験で得られたスペーサ増倍係数(スペーサが無い場合の液膜流量でスペーサが有る場合の液膜流量を除した値として定義)を示している.気相の見かけ流速が増大すると,スペーサ増倍係数が1より大きくなる.これは,気相流速が大きくなるとエントレインメント流量が増え,スペーサ効果が顕在化するためと考えられる.HFC134aガス-エタノール系と窒素ガス−水系におけるスペーサ増倍係数の基本的な傾向は同様である.
以下ではこれらのスペーサ増倍係数とサブチャンネル解析を組み合わせることで限界出力を算出し,スペーサによる限界出力への効果を検討する.スペーサによる液滴の燃料棒表面への付着を模擬したスペーサモデルには図4に示す3つのモデル(乱流促進モデル,偏流効果モデルおよびRun offモデル)があり,スペーサモデル係数もそれに対応して3つある.まず窒素ガス−水系において,スペーサによる液膜流量の増加割合が実験で得られたスペーサ増倍係数に一致するように,スペーサモデル係数をフィッティングした.図5は,これと同程度のモデル係数を用いて高温・高圧の水の場合の液膜流量,液滴流量の解析結果と HFC134aガス−エタノール系における実験結果の比較をjg=10m/sの場合について示す.この図より気液の物性が大きく異なる窒素ガスー水系から決定したスペーサモデル係数を用いても,HFC134aガス−エタノール系における実験結果を本解析は予測できることがわかった.そこで,上記で算定したスペーサモデル係数を用いて,限界出力解析を実施した.その結果,スペーサを設置することによって限界出力がスペーサ無しの場合より約4%増加する結果となった.限界出力に関する予測精度については,現状では比較する実機の実験データがないため検討するのは難しいが,サブチャンネル体系における実機の限界出力の実験データは既に得られているので,本年度,流路形状をサブチャンネルに変更して同様の解析を実施し,それと比較することで本手法による限界熱流束の予測の妥当性を検討する予定である.
3.まとめ
今後は,流路形状をサブチャンネルに変更し,流路形状が与える影響について検討を行っていく予定である.
Table 1: Comparison of gas-liquid properties between BWR operating condition and experimental
図1 テストセクション
図2 スペーサ形状
図3 スペーサ増倍係数
図4 スペーサモデルの概略図
図5 HFCガスーエタノール系の実験および解析結果の比較 jg=10m/s