原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集
ナトリウム中の目視検査装置の開発
(研究代表者)山下 卓哉 次世代原子力システム研究開発部門
(再委託先)公立大学法人 会津大学
1.研究開発の背景とねらい
ナトリウム(以下Naと略す)冷却型高速増殖炉(FBR)の原子炉容器内壁や炉心支持構造など液体金属中にある構造物は、検査が困難なため、これまでは設計上大きな裕度を持たせることで安全性と信頼性を確保している。このため過度に保守的な設計となり、軽水炉と比較してコスト高となる要因のひとつになっている。軽水炉と同等の検査・保守性を確保し設計裕度を最適化するためには、Na中の構造物の変形や欠陥の検査が可能な目視検査技術の開発が必要である。
本事業では、FBRの炉内目視検査用センサとして、超音波を使って機器の変形、破損、脱落等が確認できる解像度2.0mm程度を有し1画面当りの画像処理時間が約0.5秒の圧電素子受信方式のリアルタイムセンサと、疲労き裂の確認に必要な解像度0.3mm程度を有する光ダイアフラム受信方式の高解像度センサを試作し水中試験及びNa中試験によりFBRへの適用性を実証する。
2.研究開発成果
高性能なセンサを試作するためには、センサとして用いる超音波素子の基本特性の把握や最適な素子配列の検討を行うとともに、信号処理システムとして用いるソフトウエアやハードウエアの概念検討を行い最適なシステムの概念を構築しておく必要がある。このために、平成18年度より以下の検討を実施している。
①リアルタイムセンサの設計・試作・試験
超音波の発受信特性に影響を与えるNa中でのセンサの濡れ性確保は重要であり、文献調査等により濡れを促進する条件を調査した。また、平成18年度に引続き4×4(16ch)の素子配列のセンサ要素体を製作し、約200℃のNa中で超音波の発受信試験を行なった。本試験から、センサの濡れ性を良くするためには、Na中の酸素濃度を極力低減することが重要であることがわかった。更に、Naの濡れ性を促進するには、センサ前面板を酸化や汚れ等から保護するために金でコ−ティングを施すなどの対策が必要なことがわかった。酸素濃度の低減と金処理による濡れ性の改善効果を確認するために、Na中の酸素濃度を低減できるように簡易コールドトラップを追加し改良を加えたNa濡れ性再確認試験装置(図−1)を用いて濡れ性再確認試験を実施し、水中試験で得られた超音波受信強度との比較及び目視によるNa浸漬後の前面板の状態観察を行った。その結果、Na中の酸素濃度を低減し金処理を施すことにより、目視検査に必要な超音波強度を得ることができることが確認された(図−2)。また、シリコンオイルによる高温試験を実施し、高温での健全性を確認した。
図−1 Na濡れ性再確認試験装置
図−2 Na濡れ性再確認試験結果
②高解像度センサの設計・試作・試験
18年度に実施した耐熱送信センサ素子の課題分析の結果、センサの筐体を介して送信素子から受信素子へ直接超音波が伝わる現象(クロストーク)による解像度の低下が懸念されたことから、送信素子を音響的に隔離する改良を行った。この改良により、高温で感度が低下する分を考慮しても目標解像度を達成するに十分な感度が得られることを確認した。この結果を反映した送信1ch、受信25chのセンサ要素体を試作し、水中画像化試験を実施した。水中画像化試験では、センサ要素体をスキャニングすることにより実機相当の素子ピッチを模擬した。図−3(1)に本センサ要素体で取得した0.2mm幅(波長の関係からNa中では0.3mmに相当)のEDMスリットの水中画像を、図−3(2)に500円硬貨の水中画像を示す。
図−3 水中試験結果
①解析による高度化の性能評価(再委託先:会津大学)
平成18年度の信号処理システムソフトウエアの高度化検討では、同時信号送受信による高速信号処理システムを構築するために必要な、(a)ランダム波形の生成法、(b)相関処理による信号抽出法、(c)開口合成法による形状復元法の検討を行い、手法の原理的な妥当性の確認を行った。平成19年度は、この手法の有効性をさらに多様な観点から確認するため、シミュレーションによる状復元精度・誤差の評価を行い以下の結論を得た。
・3値ZCZ系列は擬似ランダム系列(M系列)よりS/N比がよい。
・変調方式では、パルス変調が最もS/N比がよい。
・相関抽出では、受信信号の原波形を用いるのがよい。
・系列の長さと最小ビット長さは、S/N比に影響しない。
この結果、ランダム信号はパルス変調法による3値ZCZ系列信号とし、信号分離に使う相関処理は原波形とすることが最適であることが分かった。
②リアルタイムセンサ用高速信号処理システムの試作・評価及び改良
描画速度0.5秒/画像の処理が可能なソフトウエアを試作し、平成18年度に製作した高速信号処理システム(図−4)への組み込みを行なった。更に、センサ要素体や256(16×16)chのリアルタイムセンサの水中試験を通して信号処理システムの評価を行い、Na中目視時の信号処理に必要な、センサの位置情報ファイル、水中・Na中試験でのターゲットとの距離、超音波の伝播媒質・媒質温度等を考慮したシステムの改良を行った。また、高温のNa中ではセンサが熱膨張することにより圧電素子の間隔が変化し解像度に影響するため、平板までのエコーの到達時間を計測して素子間隔の補正を行う機能を追加した(図−5)。
図−4 リアルタイムセンサ用高速信号処理システムの外観とその構成
図−5 素子間隔の補正を行う機能
これまでの検討により、以下の知見を得た。
リアルタイムセンサについては、Na中での濡れ性確認試験を実施し、Na中の酸素濃度を低減し前面版に金処理を施すことにより、目視検査に必要な超音波強度を得ることができることを確認するとともに、シリコンオイルによる200℃の高温試験を実施しセンサの耐熱性を確認した。高解像度センサについては、送受信素子間を音響的に隔離する改良を行い、高温で感度が低下する分を考慮しても目標解像度を達成するに十分な感度が得られることを確認した。これらの改良を反映し、発受信256chのリアルタイムセンサと発信9ch受信256chの高解像度センサをそれぞれ製作した。
信号処理システムの高度化検討では、超音波のシミュレーションにより、ランダム波形の生成法、相関処理による信号抽出法、開口合成法による形状復元法の影響評価を行い、ランダム信号はパルス変調法による3値ZCZ系列信号で、信号分離に使う相関処理は原波形とすることが最適であることが分かった。
3.今後の展望
現在、平成19年度に製作した256chのリアルタイムセンサと高解像度センサを用いたNa中の画像化試験を進めており、最終年度である平成20年度末までに試験結果をまとめ、FBRの炉内目視検査用センサとして適用性を評価するために以下の確認を行なう予定である。
実機仕様の16×16配列(256要素)のリアルタイムセンサのNa中試験により、水平分解能2.0mm、画像処理速度0.5秒/flameで可視化できることを確認する。併せて、センサの耐熱性、Naに対する耐腐食性を実証する。
送信用素子9ch、受信素子256chの高解像度センサのNa中試験により、0.3mmの解像度で可視化できることを確認する。併せて、センサの耐熱性、Naに対する耐腐食性を実証する。
パルス入力の実機データと同時送受信方式のシミュレーションデータを比較し、M系列、ZCZ系列を用いた信号処理方法の有効性を確認する。