原子力システム研究開発事業

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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

超臨界圧水冷却高速炉の炉内構造材劣化予兆診断技術の開発

(受託者) 独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者) 根本 義之 独立行政法人日本原子力研究開発機構 研究副主幹
(再委託先)国立大学法人東北大学、住友金属テクノロジー株式会社

1.研究開発の背景とねらい

 これまでに導入されている原子炉構造材料の劣化診断技術としては、超音波探傷法、渦電流探傷法等が挙げられるが、いずれもすでに構造材料に微細き裂などの損傷が発生した後に検知可能な診断法である。一方これまでに著者らが行った研究では組成が異なる高純度モデルオーステナイト系ステンレス合金の1dpa、5dpa中性子照射材において、IASCC感受性と漏えい磁束密度の間に相関関係が示されている[1]。そのため本事業は、超臨界圧水冷却高速炉システムの炉内構造材料において生じる照射誘起応力腐食割れ(IASCC)対策のため、き裂発生以前の予兆段階を非破壊的に検知できる材料劣化予兆診断システムの開発を目的として行った。

2.研究開発成果

2.1 原理解明研究
 IASCC感受性と磁気パラメータの相関関係の原理解明のため、照射誘起偏析による粒界での幅数nmのCr欠乏を熱処理によって模擬したSUS304試験片を用いて研究を行った。その結果、高温水中の低歪み速度引張り(SSRT)試験で評価したSCC感受性と、フラックスゲート(FG)センサーで測定した漏えい磁束密度、交流磁化法で測定した第3高調波強度及び渦電流法で測定したプローブ電圧等の磁気パラメータの間に相関関係が見られた[2,3]。さらにこれらの試験片の磁気力顕微鏡(MFM)観察では、粒界で磁区構造の変化が見られた[3]。以上の結果から、照射誘起偏析レベルの幅数nmの粒界Cr欠乏層における磁性相生成がIASCC感受性と磁気パラメータの相関関係に関係している可能性が示された。一方、実際の照射材における照射誘起偏析では、粒界においてCr欠乏のみならずNi富化も起きる。そのため、SUS304を基に母材の組成をNi:30mass%、Cr:10mass%に調整した試験片(10Cr-30Ni材)を鋭敏化熱処理(650℃/45分)し、粒界組成をNi:30mass%、Cr:5mass%程度とすることで照射材の粒界におけるCr欠乏とNi富化を模擬した試験片を用いて、粒界での磁性相生成の可能性について検討を行った。その結果、MFM観察において粒界部分で磁区構造の変化が見られ、熱処理前後で漏えい磁束密度の変化が見られた[4]。また、粒界部分の透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果を図1に示す。粒界での析出物生成が観察され、電子線回折図形の解析結果から、生成した析出物は磁性相のパーマロイ(FeNi3)であることが明らかになった[5]。さらに、本事業でIASCC感受性と漏えい磁束密度に相関が見られたHP304/S材の1dpa中性子照射材について、原子力機構でこれまでに撮影したTEM写真を用いて新たに解析を行ったところ、同じくパーマロイ(FeNi3)の生成が確認された。以上の結果から、照射誘起偏析による粒界部分でのCr欠乏、Ni富化による磁性相の生成がIASCC感受性と磁気パラメータの相関関係の主要因である事が明らかになった。

2.2 機器開発研究
 実機に適用可能なモニタリングシステム開発のため、耐環境性を向上させたセンサープローブの開発を行った。センサーの耐放射線性を評価するため、センサーにガンマ線照射を行った。PWRにおける通常メンテナンス時の被ばく線量は約100Gy程度、異常時における被ばく線量は約1MGy程度とされているが、開発したセンサーは2MGy程度までの照射では性能劣化は起きないことが示された[6]。また、耐熱性、耐水性、遠隔性についても試験を行い、実機に適用可能な性能を備えていることが示された。また、これらのセンサーを用いたモニタリングシステムを開発し、これまでにFGセンサーによる漏えい磁束密度測定等に用いた、組成の異なる6種類の高純度ステンレス合金の1dpa, 5dpa中性子照射材について、交流磁化法及び渦電流法による測定を行った。既知のIASCC感受性データと、交流磁化法測定の結果得られた第3高調波強度の相関関係を図2に示す[3]。漏えい磁束密度測定の場合と同様に、IASCC感受性と第3高調波強度の間に正の相関関係が見られた。また渦電流法において得られたプローブ電圧の値も、IASCC感受性と正の相関性を示した。同様の測定をSUS316Lの0.12、0.91、3.24dpa中性子照射材についても行い、IASCC感受性と交流磁化法、渦電流法によって得られた磁気パラメータとの間に正の相関関係があることが示された[3]。測定前に対象物の消磁、着磁等が必要とされる漏えい磁束密度測定に比較して、交流磁化法、渦電流法は測定手順が簡便である。また、同一のセンサープローブを用いて、交流磁化法と渦電流法、両方の測定を行うことが出来る。そのため、両者の結果を連続して取得し、比較することによって、より正確な評価が出来ると考えられる。以上により、本事業で開発したセンサープローブを搭載したモニタリングシステムの、実機への適用の可能性が確認された。

図1
図1 鋭敏化熱処理した10Cr-30Ni材のTEM観察結果。(a)明視野像、(b)結晶粒①からの電子線回折像(B=[0 1 1])、(c)結晶粒②からの電子線回折像(B=[1 3 3])、(d)結晶粒①、②と粒界を含む領域からの電子線回折図形、(e)(d)の電子線回折図形の模式図(・:結晶粒①からの電子線回折図形、◆:結晶粒②からの電子線回折図形、○:粒界の析出物からの電子線回折図形(パーマロイ(FeNi3)、B=[0 1 1]))、(f)(d)と(e)中で矢印で示した、パーマロイからの回折斑点による暗視野像。
図2
図2 中性子照射材のIASCC感受性と交流磁化法によって測定した第3高調波強度との相関関係。
3.今後の展望

 本事業により、IASCC感受性と磁気パラメータの相関関係の原理が解明された。また炉内構造材料劣化予兆診断システムの実機への適用の可能性が確認された。今後は粒界での磁性相生成以外の照射欠陥等の因子によるIASCC感受性と磁気パラメータの相関関係への影響について検討を行い、予兆診断の高精度化を図るべきと考えられる。また、現行炉実機等での性能評価試験等を行い、実用化に向けた開発を進めていくべきであると考えられる。

4.参考文献

[1] 上野文義、永江勇二、根本義之、三輪幸夫、高屋茂、星屋泰二、塚田隆、青砥紀身、石井敏満、近江正男、清水道雄、阿部康弘、吉武庸光、中村保雄、山下卓哉、「原研-サイクル機構 融合研究報告書 照射環境における原子炉構造材料の劣化現象に関する研究」JAERI-Research 2005-023, JNC TY9400 2005-013.

[2] 根本義之、高屋茂、海老根典也、塚田隆、内一哲哉、欅田理、「IASCC感受性と電磁気特性の相関についての検討(1)」、日本原子力学会 2007年春の年会、L20.

[3] 根本義之、欅田理、内一哲哉、高屋茂、塚田隆、「ステンレス鋼のIASCC感受性と磁気特性の相関性に関する研究」、日本保全学会誌「保全学」掲載予定(2009).

[4] 根本義之、三輪幸夫、高屋茂、海老根典也、塚田隆、内一哲哉、欅田理、「IASCC感受性の非破壊評価手法に関する研究」第1回検査・評価・保全に関する連携講演会講演論文集、(2008) 76-79.

[5] P. Villaers and L.D. Calvert, “Peason’s Handbook of Crystallographic Data for Intermetallic Phases”, Vol. 3, ASM International, (1991) 3314.

[6] 吉川榮和,渡辺長深,瀧澤洋二,大賀幸治,大井忠、「フレキシブルメンテナンスシステム(FMS)その背景と構想および技術開発成果」,日本原子力学会誌, Vol. 48, No. 7(2006).


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