原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

超音波による3次元流速ベクトル分布計測システムの開発

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)大林寛生
(研究開発期間)平成19年度〜21年度

1.研究開発の背景とねらい

 ナトリウム冷却高速増殖炉において、短縮化された冷却材流路系の流動安定性評価が技術的課題とされており、熱流動評価を含めた配管・構造設計の面から、液体金属流動場の実験的熱流動評価手法確立が求められている。しかしながら、不透明、且つ高温状態にある液体金属流動場に適用可能な速度場計測手法は極めて少ない。このため、本事業では、超音波流速分布測定法(Ultrasonic Velocity Profiling, 以下、UVPという)をもとに、液体金属流動場中3次元流速ベクトル分布計測システム(以下Vector-UVPという)の開発を行うことを目的とする。

2.研究開発成果

 本課題において提案するVector-UVPは、UVPが計測時に獲得する速度情報量拡張を目的とした計測システムである。概念図を図1に示す。従来のUVPでは1本の超音波トランスデューサにより超音波バースト信号の送受信がなされるが、Vector-UVPでは、複数本のトランスデューサを使用する。基本的には中央に1本、その周囲に計3本のトランスデューサを配置する。中央のトランスデューサは超音波の送信部(エミッタ)、周囲の3本は受信部(レシーバ)として機能する。レシーバで受信されたエコー信号をそれぞれについて処理を施すことで、3方向の速度成分が得られる。エコー信号は超音波ビーム上のあらゆる位置から返されるため、理論上は計測線上の3次元速度ベクトルの取得が可能である。また、平成21年度は開発した計測システムの高温液体金属流動場に対する適用性を評価するため、高温試験用ループを用いた流動計測試験を実施した。本計測システムは流体の透明性を問わず計測が可能であるため、幅広い対象へ適用することが可能である。このため、実験を安全に遂行するため、計測対象は溶融鉛ビスマス(LBE)とした。計測系の概略を図2に示す。計測は試験流路後方30mmの位置で実施された。計測時の温度条件は、150-250℃とし、送信信号の反射散乱体としてArガスの微小気泡を添加した。計測結果例を図3に示す。計測は流路が拡大した後の領域で実施され、計測領域手前側では速度差が大きい領域となるため、乱れが大きくなる。計測の結果、LBE中での3方向速度成分分布の獲得に成功し、瞬時計測データでは、流れが大きく乱れる領域での3次元的な流れの構造を捉えることに成功した。本事業により、0.875mmの空間分解能、50msecの時間分解能で1m/sec程度の速度成分の検出し、平均流速に対し約10%の誤差での計測が実現されたことから、所定の目標を達成したと考える。

図1
図1 Vector-UVP概念図および本体撮影画像
図2
図2 LBE流動計測系の概略図
図3
図3 3方向速度成分分布計測結果例(左)および瞬時3次元速度ベクトル分布(右)
3.今後の展望

 濡れ性の問題、反射散乱体に対する評価、300℃近傍の高温度条件への対応等が今後の課題であると考える。(温度条件については500℃を目標とした開発を実施中である。)これらの課題については、事業終了後も継続して研究開発を進めていき、液体金属流動場における実験計測データの拡充、予測計算精度の向上等を図り、原子力システム冷却系全般の健全性向上に貢献する。

4.参考文献

Y.Takeda, 1987, “Measurement of velocity profile of mercury flow by ultrasound Doppler shift method” Nucl. Tech. Vol 79, pp.120-124. 他

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