原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

高経年配管系に対する耐震裕度の定量評価に関する研究

(受託者)独立行政法人 防災科学技術研究所
(研究代表者)中村いずみ 兵庫耐震工学研究センター
(再委託先)国立大学法人横浜国立大学、株式会社IHI
(研究開発期間)平成20年度〜22年度

1.研究開発の背景とねらい

 2007年7月に発生した新潟県中越沖地震では、柏崎刈羽原子力発電所で設計の想定を超える地震動を記録した。地震後、炉内を含む施設の点検が実施されているが、これまでのところ耐震重要度の高い機器・構造物等に対する損傷は報告されていない。これは、現行の耐震基準に従い設計された機器・構造物等は、基準を超えた入力を受けても実際に機能喪失に至るような損傷を生じるまでにはある程度の裕度を有していることを示している。しかし、設計上の想定を超えた入力を受けた機器類の弾塑性応答挙動や限界強度、内包する耐震裕度は必ずしも明確になってはいない。また、日本においては、2009年12月末時点で54基の商業用原子炉が運転中であるが、このうち、全体の半数以上にあたる32基は稼働開始から20年以上を、うち18基が30年以上を経過しており、高経年化対策は昨今重要な課題となっている。一般に、プラントにおける主要構成要素のひとつである配管系では、高経年化に伴い減肉の発生が想定されているが、減肉の生じた配管系の耐震性能については、実験的検討、解析的検討ともに限られた条件についての検討にとどまっており、減肉部の耐震裕度への影響は明確ではない。このような背景に基づき、本事業は、健全な配管系について、設計時の想定を超えた地震動を受けた場合の配管系の耐震裕度を明らかにすることと、そのような配管系の耐震裕度に対し、減肉が存在した場合の影響を把握し、配管系の耐震性に対する減肉部の影響を明らかにすることを目的として実施している。

2.研究開発成果

 本事業は、平成20年度〜平成22年度の3ヶ年での実施を予定しており、大きく分けて以下の3項目を実施している。

3ヶ年の全体計画を表1に示す。以下では、これまでに得られた成果の概要について報告する。

表1 研究の全体計画
表1
図1
図1 中規模振動台実験試験体形状

 平成20年度と平成22年度に、配管系に対する振動台実験を実施した。平成20年度に実施した実験は、中規模振動台実験と称し、比較的単純・小規模な配管系試験体を用い、三次元加振下での応答挙動の把握、試験手法や計測手法の妥当性等の調査を目的とした。また、平成22年度に実施した実験は、防災科学技術研究所が兵庫県三木市に有する世界最大の振動実験施設である実大三次元震動破壊実験施設(以下E-ディフェンス)を用いた実証実験(以下E-ディフェンス実験)であり、実際の原子力発電所で多用される口径の配管を用い、減肉を有する配管系の耐震信頼性を検証することを目的とした。以下では平成20年に実施した中規模振動台実験の概要について述べる。
 実験で使用した配管系試験体の形状を図1に示す。実験には、全ての配管が通常肉厚である健全試験体(以下AP3-A31)と、図1のエルボ6を除く全てのエルボとティに全周減肉を模擬した減肉試験体(以下AP3-C31)の2体の試験体を用いた。試験体には795kgの重錘が2個設置されている。配管は、アンカ3からエルボ5への立ち上がり配管途中でのUプレートによる支持と、重錘1の下部におけるボールベアリング支持の2箇所で支持した。試験体には、健全部については高温配管用炭素鋼鋼管STPT370、100A、Sch80(外径:114.3mm、肉厚:8.6mm)を使用した。また、減肉部は100Aの配管用炭素鋼鋼管SGP(肉厚:4.5mm)のエルボとティを用い、約50%の全周減肉を模擬した。加振はIHI所有の、4.5m×4.5mの三次元振動台を使用した。加振試験では、1993年北海道南西沖地震においてJMA寿都で観測された波形を候補とし、使用する振動台の性能を考慮して1.5Hzのハイパスフィルタをかけた波形を使用した(以下、これを原波と称する)。試験ではEW成分をX方向、NS成分をY方向、UD成分をZ方向に入力した。実験では原波の他、試験体の特性把握のためのランダム波と正弦波を使用した。試験体の内部には水を充填し、3MPaの内圧を負荷した。実験では、弾性域、弾塑性域の振動応答を取得するとともに、試験体の損傷を目的とした加振を実施した。なお本研究においては試験体の損傷を配管本体における損傷の発生による内部水の漏洩(配管系の機能喪失)で定義した。

図2
図2 試験体の損傷モード

 実験では、原波に40%〜250%(振動台加振限界)までの倍率をかけ、弾性域〜弾塑性域の三軸同時加振を実施した。その後、X軸単軸加振(EW成分)に切り替え、さらに750%までの倍率をかけた加振を実施した。最終的には,試験体の共振振動数に近い正弦波を用い試験体を破損させた。その結果、AP3-A31では,主に面内曲げを受けるエルボ3においてエルボ脇部軸方向の疲労き裂が、AP3-C31では,主に面外曲げを受けるエルボ1において,ラチェットによる配管変形の端部付近で周方向き裂が発生した。図2に損傷状況を示す。試験前に、設計解析により配管各部に生じる一次応力を算出したところ、原波を100%で入力した場合に健全試験体に発生する一次応力レベルは約3.3Smであった。ここで、SmはJSME建設規格1)で定められている設計応力強さSmである125[N/mm2]としている。発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針は2006年9月に改訂された。これを受けて原子力発電所耐震設計技術指針(JEAG4601-1987)2)も改訂手続きが取られ、原子力発電所耐震設計技術規程(JEAC4601-2008)3)が定められた。JEAC4601-2008では、曲げによる一次応力の制限はなくなったが、改訂前のJEAG4601-1987では、一次応力制限として、許容応力状態WASにおいて3Sm以下に制限されていた。この値を設計許容レベルとすると、中規模振動台実験の試験体は、健全状態の場合、原波の100%の入力で設計許容レベルに到達すると言えるが、実験において原波100%の加振では、AP3_A31、AP3_C31とも、試験体に損傷は生じなかった。最終的に損傷が生じるまでには加速度で設計許容レベルとなる加速度レベルの7倍程度以上の入力を要するという結果が得られた。中規模振動台実験では、加振と加振の間に超音波探傷試験(UT)を行い、最終的な損傷に至る前の兆候の検出を試みた。実験終了後に実施した浸透探傷結果、磁粉探傷結果と比較すると、UTでは擬似指示と考えられる検出結果の多いことが確認されたが、最終的に破損に至ったきずは早い段階から検出されており、UTは地震を経験した配管の疲労損傷検出に有益な指標を与えると考えられることがわかった。
 本事業では、振動台実験と並行し、有限要素法による詳細解析を実施している。詳細解析は、実験結果を精度よく再現できる解析モデルを構築し、解析に基づき減肉配管の損傷寿命評価を行えるようにすること、また、実験と対照して精度を検証した解析モデルを用い、実験では実施しきれないさまざまな条件の解析を行い、配管系の地震応答による損傷に対する減肉の影響を明らかにすることを目的としている。平成20年度および平成21年度は、平成20年度に実施した中規模振動台実験の試験体形状を対象として、配管系の全体的な応答を評価する非線形時刻歴応答解析と配管要素の局部の損傷を評価する静的な弾塑性解析とを組み合わせた解析を実施し、損傷の再現と寿命評価を実施した。また、構築した解析モデルを用い、減肉条件を変化させた解析を実施し、減肉が配管系の卓越振動数に与える影響を調査した。図3に解析の手順を示す。中規模振動台実験の、配管要素の弾塑性解析の入力に実験時の計測変位を用いた事後解析では、解析により得られたひずみ履歴を用いた寿命評価結果と実験で得られた配管系の寿命とはよく一致した。平成22年度には、図3に示した解析手順に準じてE-ディフェンス実験に即した解析モデルを作成し、E-ディフェンス実験の事前・事後解析を実施するとともに、配管系の解析モデルに配管要素の解析モデルを組み入れた、弾塑性時刻歴応答解析から損傷評価までを統一して実施できる解析モデルの構築を試行している。図4に、検討中の解析モデルの例を示す。

図3
図3 数値解析に基づく配管系の損傷寿命評価の手順
図4
図4 配管系解析と配管要素解析を統合した解析モデルの検討

 裕度評価については、中規模振動台実験の結果を対象として、設計時の評価手順に準じて応力レベルの評価と疲労評価を行い、設計評価に対し実際の配管系が有している裕度要因についての考察などを行った。
 平成22年度に実施したE-ディフェンス実験では、複数のエルボおよびティ継手部を有するやや複雑な形状の配管系を対象とし、そのうちの一部に減肉を有する配管系の耐震安全性を実証的に評価検証することを試みた。また、E-ディフェンス実験においては内圧の設定を10MPaとし、比較的低圧であった中規模振動台実験と比較することで、内圧が配管系の損傷挙動に与える影響を検討した。その結果、E-ディフェンス実験では、これまでにあまり実験結果のない配管系のティ部での損傷が取得され、現在この損傷形態を解析するための解析モデルの構築、実験データの分析を実施している。

3.今後の展望

 中規模振動台実験、E-ディフェンス実験の実施により、配管系内に複数の減肉が分布する場合の配管系の動的挙動、終局強度、損傷形態を取得できた。また、これらの実験結果を精度良く再現し、寿命の予測が可能な数値モデルが構築されつつある。今後は、実験データの詳細分析や、構築された解析モデルを活用したパラメトリック解析を通じ、配管系が地震応答により損傷するまでの過程を明らかにし、配管系の有する耐震裕度をまとめていく予定である。

4.参考文献

1) 日本機械学会、2005、「発電用原子力設備規格設計・建設規格 <第T編 軽水炉規格>」、JSME S NC1-2005
2) 日本電気協会、1987、「原子力発電所耐震設計技術指針」、JEAG4601-1987
3) 日本電気協会、2009、「原子力発電所耐震設計技術規程」、JEAC4601-2008

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