原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

マルチステークホルダー時代の原子力開発利用の3S実効性確保

(受託者)財団法人電力中央研究所
(研究代表者)田邉朋行 社会経済研究所
(研究開発期間)平成21年度

1.研究開発の背景とねらい

 2008年7月のG8北海道洞爺湖サミットにおいて、我が国の提案により、「3Sに立脚した原子力エネルギー基盤整備に関する国際イニシアティブ」(以下、「3Sイニシアティブ」)が開始された。本イニシアティブは、原子力開発利用における、安全 (Safety)、核セキュリティ (Security)、保障措置 (Safeguards) の「3つのS」の重要性に関する国際認識の共有を広め、とりわけ原子力新規導入諸国等における、原子力エネルギー利用に不可欠な3Sの実効性確保とそれに関連する基盤整備とを、IAEAとの協力の下に国際協力によって支援することを企図するものである。
 本事業は、第一に、原子力利用における3S の各主要課題のうち、特に国際的な観点からも対応要請が高いと考えられる核セキュリティの課題を取り上げ、安全性や保障措置・核不拡散の実効性向上に貢献しつつ、内外の多様なステークホルダー(利害関係者)に受け入れ可能な、我が国にとって受容性が高くかつ新興原子力開発利用国にとっても参考となる、セキュリティ対策の制度的・技術的選択肢を探索・同定した。第二に、近年の原子力を巡る国際情勢の動向を踏まえつつ、「3Sイニシアティブ」の意義を明らかにするとともに、そこにおける我が国の役割と克服すべき課題について検討を加え、イニシアティブの今後の展開の方向性を示した。

2.研究開発成果
2.1 国際水準に適合する核セキュリティ対策を実現するための課題抽出と克服策の検討
表1 核セキュリティ対策制度に共通する特色
表1

 本事業では、核セキュリティ課題のうち、とりわけ、ステークホルダー間の利害対立や、既存社会制度・システムとの間の相克を生じさせやすい、秘密情報管理と内部脅威対策とを取り上げ、これらに関する国際水準を整理するとともに、それが我が国に導入・適用された場合の課題と克服策について検討した。
(1) 核セキュリティ対策の国際水準
 本事業では、各国の核セキュリティ対策の水準を概観するとともに、特に①米国における秘密情報管理の制度運用例、②米国における内部脅威対策の制度運用例、③ドイツにおける内部脅威対策の制度運用例を詳細に調査・分析し、これらに共通する特色を表1のとおり抽出した。
(2) 国際水準が我が国に適用された場合の課題点と克服策
 国際水準が我が国に仮に導入・適用された場合の課題点と克服策とを表2のとおり整理した。

表2 核セキュリティ対策の国際水準が我が国に適用された場合の課題点と克服策
表2
2.2 「3Sイニシアティブ」の意義、課題及び今後の展開の方向性
表3 規制ガバナンスとしての3Sと原子力インフラ支援としての3S
表3

(1) 「3Sイニシアティブ」の意義
 「原子力ルネサンス」の進展と核不拡散気運の世界的高揚という、近年の原子力を巡る国際情勢動向の二大潮流は、①原子力開発利用に関する、国際規範の統合・普遍化の進展、②先進利用国から新規導入国への協力・支援の重要性の増大をもたらす。このような国際情勢の中にあって、3Sに関する新規導入国への技術支援とそれを通じた3Sの「質劣化」(新規導入国での事故・核不拡散事象発生による原子力利用国全体への負のrepercussion effect波及)防止の観点から、従来規制ガバナンスの局面で論じられてきた3S概念を、新規導入国における原子力インフラの構築・支援の文脈に転化・発展させた、我が国による「3Sイニシアティブ」提唱の意義は大きい。なぜならば、規制ガバナンスのあり方に着目し、新規導入国にとって受容性が高く3S相互間のシナジー効果や範囲の経済性が期待できる規制システムや施設設置・運転内容を提案・支援することは、最終的には3Sインフラ支援に関わる全ステークホルダーの利益に繋がり、インフラ支援の強力な推進力となるからである(表3参照)。
 加えて、我が国がIAEAとの協力の下、「3Sイニシアティブ」にコミットすることは、我が国の原子力国際展開を通じた国益具現化の一助となる。表4に示すように、我が国の原子力国際展開の意義は多様である。そして、同イニシアティブへのコミットは、①3S、とりわけ安全性及び保障措置に関する優れた日本の技術を国際展開・支援を通じて新規導入国に反映させることができ、新規導入国における原子力利用の安全性と核不拡散の確保と、それを通じた我が国を含む世界の原子力開発利用の国際社会の信認の獲得を可能とする、②IAEAへの協力等を通じて、3S概念のさらなる国際展開と3Sイニシアティブの具体的方策を展開・推進することにより、3Sに関する日本発のデファクト・スタンダードを形成することが可能となり、それが産業の国際展開を推進し得る、等の意義を有し、我が国の原子力国際展開の着実な進展に寄与することが期待される。

表4 我が国における原子力国際展開の意義(例)
表4

(2) 「3Sイニシアティブ」の課題とその克服
 一方で、我が国の「3Sイニシアティブ」へのコミットに関しては、克服すべき様々な課題があり、その実行は必ずしも容易ではない。課題とその克服の方向性とを表5に示す。

表5 「3Sイニシアティブ」の課題とその克服
表5

(3) 「3Sイニシアティブ」の今後の展開の方向性
 我が国が表5に示す諸課題を克服しながら、3Sイニシアティブの国際展開コミットしていくためには、先ずは、狭い意味の3Sの定義や概念に過度にとらわれることなく、原子力損害賠償制度の確立等を含む広い概念として3Sを捉え、①すべての原子力開発利用国で整備すべきインフラストラクチャー、②新規導入国での具体的ニーズ、及び③新規導入国で導入しやすい技術や施策、といった視点から、「3S」あるいは「3Sプラス」の国際的理解の獲得とその定着を図っていくことが望ましい。その際、我が国は、新規導入国の具体的ニーズや課題等を踏まえ、これらの国が進んで導入できるような3Sインフラを、その国の国情にあわせて提案・支援する必要がある。本事業で検討した、多様なステークホルダーに受け入れ可能なセキュリティ対策の制度的・技術的選択肢は、新規導入国への3Sインフラ支援の具体的施策の一つとして活用・検討の余地がある。
 また、我が国が国際支援を図っていくためには、「オールジャパン体制」といった体制論に拘泥することなく、先ずは、自国のどの技術の分野に優位性や国際競争力があるかを把握した上で、支援先国選別と当該国における技術支援のために相応しい支援体制の選択を行うことが望ましい。

3.今後の展望

 核セキュリティ対策に関する研究に関しては、①発電施設以外(サイクル施設や輸送等)のセキュリティ課題の抽出と対応策の検討、②本研究で提示した受容性の高いセキュリティ対策の制度的・技術的選択肢のさらなる詳細検討を行う必要があろう。
 3Sイニシアティブの今後の展開の方向性に関する研究に関しては、国としての産業国際展開支援戦略の観点から、我が国原子力産業の国際展開と3S技術普及に関して、産業構造や国際標準化戦略等を踏まえた、国際展開支援の選択肢について検討を行う必要があろう。

4.参考文献

○ 田邉朋行・稲村智昌、米国原子力事業における秘密情報管理と我が国への示唆、社会技術研究論文集第6号、pp26-41、2009

○ International Atomic Energy Agency (IAEA), Milestones in the Development of a National Infrastructure for Nuclear Power, IAEA Nuclear Energy Series No. NG-G-3.1, 2007.

○ Karhu,P., Martikka E.and Olander R., Safety and Safeguards on a Joint Mission, 2009, IAEA-CN-166/11

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