原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

分子シミュレーションによるMA含有MOX物性のモデル化に関する研究

(受託者)国立大学法人東京大学
(研究代表者)小田卓司 大学院工学系研究科 助教
(研究開発期間)平成19年度〜21年度

1.研究開発の背景とねらい

 高速増殖炉サイクルにおいて、MA含有MOX燃料の実用化は、核変換による放射性廃棄物の低減と放射能の増加による核不拡散性の向上をもたらすため、重要な研究課題として位置付けられている。しかし、MAの添加がMOX燃料の物性に与える影響については、十分な理解が得られておらず、さらなる知見の蓄積と体系化が必要である。そこで本事業では、分子シミュレーションを用いて現象を原子スケールで分析して理解することで、MA含有MOXの機械物性、熱物性および照射応答挙動を、MAの種類と量の関数として表すモデルを構築することを目的とする。
 本事業は、(1)ポテンシャルモデルの構築、(2)機械・熱物性の評価、(3)照射応答挙動の分析、の3課題から構成される。まず、量子力学計算で評価したポテンシャルエネルギー曲線を利用して、MA含有MOXに適用可能なポテンシャルモデルを構築する。そして、そのポテンシャルモデルを用いて分子動力学計算を実施することで、MA含有MOXの機械物性、熱物性ならびに照射応答挙動を、MAの種類と量の関数としてモデル化する。

2.研究開発成果
(1) ポテンシャルモデルの構築

 GGA(PBE)汎関数を用いた密度汎関数理論に基づく量子力学計算により、様々なMA含有MOX構造についてエネルギー値を求めた。MA含有MOX系で有効なポテンシャルモデルとするために、UO2等の二酸化物、混合酸化物(MOX,UO2-PuO2)に加えて、U-Pu-MA(Np)-O混合系を対象として、原子変位に対するポテンシャルエネルギー曲線を作成した。
 このポテンシャルエネルギー曲線を再現するようにパラメータを調整することで、ポテンシャルモデルを構築した。量子力学計算を用いて多様なMA含有構造において評価したポテンシャルエネルギー曲線を精度よく再現できるように、従来のポテンシャルモデル式よりも張ることのできる関数空間の広い、逆多項式型の2体力モデルを採用した。 当初はポテンシャルモデルの作成において、いくつかの課題が生じたが、フィッティング対象(量子力学計算で評価したポテンシャルエネルギー曲線)の選定を改善することで、最終的にU-Pu-Np-O系について、0 Kでの格子定数や機械物性値を良好な精度で与えるとともに、比較的高温(>1000 K)においても固体としての安定性を保つことのできる、2体間ポテンシャルモデルを構築した。

(2)機械・熱物性の分析
図1
図1 MA含有MOXの体積弾性率の温度依存性

 (1)で構築したポテンシャルモデルを利用して、様々な組成のMOXやNp含有MOXが有する機械物性(体積弾性率、弾性定数等)や熱物性(熱膨張率、熱伝導率等)を、MA含有量や温度等をパラメータとして分子動力学計算により評価した。得られた結果を、MAの種類、量、温度等により整理し、MA含有効果をモデル化した。一例として、Np含有MOXの体積弾性率を図1に示す。
 結果として、数10%程度までのMAの含有は、MOXの機械・熱物性に大きな影響を与えない可能性が高いことが示唆された。ただし、体積弾性率や熱伝導率等で見られたように、材料にとって不純物とみなせる数%のMA含有と、化合物的な取り扱いが必要になる数10%程度までの含有では、本質的にMA含有が与える影響が異なる。MA二酸化物の物性データは不足しており、それらの物性が色濃く反映されてくる数10%程度以上の添加を行う場合には、物性データの拡充が必要と考えられる。MA間の影響の比較では、Am含有やCm含有は、Np含有よりもMOXの物性に大きな影響を与える可能性が示唆された。これは、NpO2の格子定数と比較して、AmO2やCmO2の格子定数ではMOXの格子定数との相違が大きいこと、また電子構造の相違も大きいことに起因していると考えられる。実験結果との比較においては、機械物性では良好な一致が得られたが、熱物性、特に熱伝導率については乖離が大きく、今後の検討課題である。

(3)照射応答挙動の分析

 UO2、MOX、MA含有MOXを対象として、分子動力学計算により弾き出しの閾値を評価したところ、MA含有は、MOXの弾き出しエネルギーに大きな影響を与えないことが確認された。ただし、弾き出し閾値の計算結果は、既往の実験報告値と比較して2倍程度の過大評価であった。①温度効果、②実験と計算における定義の違い、③ポテンシャルモデルの影響等が、総合的に寄与していると考えられるが、その解明は今後の検討課題である。数keV〜数10 keVの弾き出しシミュレーションにおいても、欠陥の生成量や欠陥構造に、明確なMA含有効果は見られず、MA含有がMOXの弾き出し挙動に与える影響は大きくないことが示唆された。
 MA含有MOXの照射応答挙動をモデル化するために、格子定数、体積弾性率、熱伝導率等について、欠陥量と物性値との相関を調べた。欠陥効果は、MA含有効果よりも、MOXの物性に与える影響が大きいことを確認したが、MOXにおける欠陥効果と、MA含有MOXにおける欠陥効果は、類似の傾向を示した。MA含有がMOXにおける欠陥効果に与える影響は、小さいことが示唆された。

3.今後の展望

 以上のように、本研究により、機械物性・熱物性・照射応答挙動について、MA含有の効果は大きくないことが幅広いMA含有率において示唆された。ただし、今回のモデルでは、電子のやり取りを伴うような材料の化学特性にMA含有が与える影響については十分に考慮できていない。その点は、本質的に計算機科学によるアプローチが困難な領域でもあり、MA含有によるMOXの化学的特性の変化については、実験による確認が必要である。また、計算結果については、Am含有MOXやCm含有MOXの結果、および熱伝導率の結果は、他の結果と比較して信頼性が不十分な可能性が高く、定量的な議論を深めるためには、本研究の結果を基礎としつつ、高精度化のためのさらなる研究が必要である。

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