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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

イオン液体含浸有機隔膜によるLi同位体分離技術に関する研究

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)星野毅 核融合研究開発部門ブランケット照射開発グループ
(研究開発期間)平成20年度〜21年度

1.研究開発の背景とねらい
図1
図1 Li同位体分離技術の原理

 核融合炉の燃料として必要なトリチウムは、核融合炉ブランケット内に装荷されるトリチウム増殖材料(Liセラミックス)中の6-リチウム(6Li)と中性子との核反応により生産する。しかしながら、天然のLiは6Liが約7.6%しか存在せず、核融合炉の定常運転に必要なトリチウム量を確保するためにはLiの同位体(6Liと7Li)比が天然より高い30〜90%濃縮6Liが必要となる。日本では海外からの濃縮6Liの調達を考えていたが、希少な6Li濃縮試料を大量に調達することは不可能となっただけでなく、工業化や大量製造へのスケールアップが可能な技術も有していなかった。
 そこで、近年リチウムイオン電池の先進電解質材料として期待されているLiイオンを選択的に透過させるイオン液体に着目し、Li同位体分離技術への適応を発案した。天然同位体比のLi水溶液(アノード側)とLiの無い溶液(カソード側)の間をイオン液体含浸有機膜にて隔てた電気透析セルに電位を加えることにより、イオン液体含浸有機隔膜を通してLiイオンのみが移動する。移動の際、6Liイオンは7Liイオンより移動速度が速いため、移動後のカソード側は6Liが濃縮した溶液になるLi同位体分離技術である(図1)[1]。
 本事業では、発案した技術により、Li同位体の移動度の差を利用した高いLi同位体分離係数と大量製造へのスケールアップが可能な最適実験条件を単セルにて探索した後、多段セルへと研究を発展させ、Li同位体分離装置の詳細設計を行う上で必要な基礎データの取得を目標とする。

2.研究開発成果

 Li原液側と6Li回収側を図1と同様にそれぞれ一つとした単セルにて6Li同位体分離測定を行った。イオン液体は近年開発された電位窓の広いPP13-TFSIを使用し、最高で6Li同位体分離係数1.4と高い値を得たが、高い6Li同位体分離係数が得られる測定条件ほど、得られる6Liの収量が低い傾向となった(図2)。そこで、電気透析を用いた6Li同位体分離測定における6Li同位体分離の効率を検討するため、6Liの同位分離効率を6Li同位体分離係数と6Li収量の関係で表す次式で定義し、6Li同位体分離効率と6Li同位体分離係数の関係を調べた。

6Li同位体分離効率=6Li収量×(6Li同位体分離係数-1)  (1)

 計算結果より、6Li同位体分離効率は6Li同位体分離係数1.05まで急激に上昇し、1.15以降は逆に6Li分離効率が下がる結果が得られた。本イオン液体含浸有機隔膜による6Li同位体分離測定では、既に海外にて実用化されてはいるものの我が国では環境負荷の観点から使用の困難な水銀アマルガム法の6Li同位体分離係数である1.06とほぼ同等の6Li同位体分離係数にて6Li同位体分離を行うことが、6Li同位体分離係数と6Li収量のバランスの観点から適していると考察した。

図2
図2 6Li同位体分離係数の6Li収量依存性と最適6Li同位体分離効率の検討

 また、イオン液体含浸有機隔膜からのイオン液体の溶脱を抑制するため、ナフィオン324等を保護膜として両端に挟んだ高耐久性膜の開発を行い、膜を複数枚使用することでLi原液側を複数配置した多段セル6Li同位体分離装置の製作を行った(図3)。Li原液側、6Li回収側及びセルの外側に配置した極液には0.1mol%のLiCl溶液を用い、1ml/minの流速にて濃縮・減損側に通液すると共に、0.5mAの定電流にて75mim通電した際の6Li同位体分離係数を算出した。その結果、濃縮側のLi同位体分離係数は1.051となった(表1)。これまでの測定では6Li回収側溶液としてはLiの無い希塩酸等を用いており、今回、予め天然比の6Li(約7.6%)が存在するLiCl溶液にてLi同位体分離係数1.051が得られたことは、多量の6Liが濃縮側へ移動したことを示しており、大量製造へ向けた見通しを得た。また、極液(容量:250ml)においても、6Liイオンがセル内へと透過することでLi同位体分離係数1.044のLiCl溶液が得られることを発見した。これらの結果は、従来の単セル結果よりも多量の6Li濃縮ができる可能性を示唆するものであり、膜の組み合わせ等を工夫することで、より高い6Li収量及び同位体分離係数を得るための指針を得た。

図3
図3 多段セル6Li同位体分離装置
表1 6Li同位体分離試験結
表1
3.今後の展望

 イオン液体を用いた6Li同位体分離技術は環境負荷が少なく工業化(量産化)し易い技術であり、既往のアマルガム法に替わる革新的基礎技術と言える。更に本研究を発展し、使用済みLiイオン電池等の都市鉱山からのレアメタルLi(6Li)リサイクル技術開発へと、今後、自動車用大型Liイオン電池の増加が想定される電池産業への波及効果も大きな期待が持てる。

4.参考文献

[1] T. Hoshino, T. Terai, “Basic technology for 6Li enrichment using an ionic-liquid impregnated organic membrane”, Journal of Nuclear Materials, 出版中.

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