原子力システム研究開発事業

HOME研究成果平成22年度成果報告会開催資料集>第三世代耐照射性オーステナイト合金の研究開発

平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

第三世代耐照射性オーステナイト合金の研究開発

(受託者) 株式会社 神戸製鋼所
(研究代表者)能浦 毅 資源・エンジニアリング事業本部 原子力・CWD本部 技術部
(再委託先) 独立行政法人 日本原子力研究開発機構
(研究開発期間)平成20年度〜22年度

1.研究開発の背景とねらい

 発電、増殖及び核変換の3機能を担保する低除染MOXの平均最高燃焼度250GWD/MT、被覆管表面温度700℃を目指す実証炉の実用化研究のFaCT事業では、燃料被覆管の候補材に耐照射性に優れるフェライト鋼の高温強度を改善した9Cr-ODS鋼が選定されている。一方、核燃料サイクル工程では、強放射線場の燃料製造〜炉心装荷、使用済燃料の水プール長期保管及び先進湿式再処理の硝酸への溶解等の適用性として優れた耐食性が要求される。フェライト鋼は、相安定性上、ステンレスと呼ばれる自己保護膜生成に十分な16wt%以上の高Cr化が困難であり、海外では耐食性の要求度の低い低温型高速増殖炉−ドライ保管−乾式再処理の金属燃料用被覆管として検討されてきた経緯がある。従って、耐照射性と耐食性の双方が要求されるJSFR実用炉の燃料被覆管には、実炉経験豊富なオーステナイト系耐食合金で、英国の原型炉PFRへの適用実績のある Nimonic Alloy PE16等の析出強化型Ni基耐熱合金の高性能化が不可欠と考えられる。
 本研究は、当該耐熱合金の唯一の課題である高温時効に伴う延性低下の克服を念頭に、新溶製技術と合金設計法を駆使して製管技術を開発し、JSFRの炉心性能及び核燃料サイクル工程への適用性を評価して、燃料集合体の開発や実炉照射試験に必要な材料特性データを整備する(図1)。

図1
図1.研究開発のフロー図
2.研究開発成果
2-1.耐照射性・耐食合金設計

 オーステナイト系合金の耐スウエリング性は、原理的にγ相安定性と積層欠陥生成エネルギーに依存し、改善策には、電子空孔濃度を低める高Ni化が最も有効である。Ni基耐熱合金は、約40%以上の十分なNiを含み、ステンレス鋼特有の照射量に依存する定常スウエリング速度自体が消失し、信頼性が高い。当該汎用合金の主流は、Ni3M系金属間化合物の析出強化型であり、PE16等のAl、Ti添加のγ`析出型や米国のインコネル系のNb添加のγ``析出型がある。それらの実用化の障壁である照射時効に伴う延性低下の原因検討を行い、高温クリープ強度確保用のMoとCの複合添加に伴い、700℃付近の照射下で結晶粒界でのPやS等の不純物や核変換反応生成Heの偏析、界面エネルギー支配の規則化合物Ni3MとMo主体のM6Cの成長・粗大化が複合的に生じて粒界脆化を大きく促進する機構が判明した。本合金設計では、上記のPE16に関して、現候補材のJSFRの設計クリープ強度の範囲内で時効脆化を抑制する対策として、超高純度溶製法EHP(Extra-High-Purity)による不純物の低減、脆化要因のMoとCの排除、Al、Ti添加だけのNi3M析出強化法(以後γ`系Ni基EHP合金と略称)の複合手段を選定した。併せて析出物の安定温度範囲と耐照射性の確保のためにステンレス鋼の重照射時効後の最終析出物のシリサイドG相や、Siのスウエリング抑制効果に着目してWシリサイド析出強化型の高Cr-W-Si系合金 (以後、G系Ni基EHP合金と略称)を開発した。開発合金は、25wt%Cr系として重照射下の照射誘起偏析に伴う結晶粒界のCr欠乏と核燃料サイクルの耐食性確保を図った(表1)。

表1.開発合金及び比較材の組成表
表1
図2
図2.被覆管製造技術開発と評価試験
2-2.被覆管製造技術の開発

 開発合金は、公募事業で開発した磁気浮上型高周波誘導溶解炉(CCIM)と電子ビーム溶解炉(EB)の酸化、還元、揮発の複合精錬法を適用し、主要元素以外の金属及びPやS等の不純物を含む主要な非金属を約100ppm以下に制御するEHP仕様の高清浄度材とした(図2)。それにより、Ni基耐熱合金特有の不純物の係わる溶製時の凝固割れや高温割れが抑制され、成形加工性能も大幅に改善出来た。従来の溶製法では困難な可鍛性の高W-Si系Ni基合金も、EHP化により、実用被覆管の多量製造に必要な熱間の押出しや引抜き加工に十分な温度域が得られた(図3)。それを基に、小規模の製管試験を行い、実用化に必要な約4mの被覆管を試作し、現行のPNC316鋼と同等以上の実用被覆管としての製品性能を確認した。併せて、端栓溶接法を検討して、熱影響部が狭く、接合強度低下や欠陥生成のリスクの低いプラズマアーク溶接を適用して最適接合条件を選定し、燃料棒の製造技術を選定した。その端栓付き被覆管を用いて内圧クリープ等の評価試験を実施した。当該結果から、開発合金は、現行PNC316の実用被覆管の多量製造設備が有効に利用して実用被覆管に必要な高信頼性と経済性が確保出来、JSFRの要求条件を現行候補材ODSよりも達成し易い見通しが得られた。

図3
図3.高温のクリープ強度、延性及び成形加工性の評価結果
2-3.炉心性能の評価

 現行のもんじゅやFaCTの燃料設計情報を基に、燃料被覆管の要求条件を検討した。燃料安全性では、定常運転範囲の過渡出力時の温度が830℃で被覆管の最終熱処理温度には約850℃以上が、被覆管長手方向には400~700℃の全温度域で1%以上の延性が要求される。時効析出の検討からγ`系Ni基EHP合金は析出温度域が狭く850℃を担保し難いが、WシリサイドのG系は、850℃が担保できる。γ相安定性の高いNi基合金は、現用PNC316鋼の高温長時間側のσ相生成によるクリープ強度低下や低中温脆化が生じ難く、燃料安全上の優位度が高い。高温クリープ強度は、延性改善策により市販材のPE16より低下するが、拡散クリープの粒界すべり支配に伴い、シリサイド析出強化とASTM5~6程度の結晶粒径制御により現行FaCTやSCWRの被覆管設計要求が担保でき、破断伸びも大きく、延性低下の課題が払拭できる(図3)。
 高速炉は、核融合炉や軽水炉の混合スペクトル炉と比較して核変換反応に伴うHeやHの生成量が小さく、Ni基合金の課題のヘリウム脆性のリスクも低い。それを模擬した高崎研TIARAのトリプルイオンビーム試験と北大の超高圧電子顕微鏡のその場観察により、400℃~700℃の実用温度域で100dpa内の重照射試験を実施した(1)(2)(3)。G系Ni基EHP合金は、500℃以下の照射硬化が大きいが、フランクループ等の二次照射欠陥の成長を抑制出来る。500℃以上のスウエリング域では過飽和のSiがG相として微細析出するがボイドを生じ難い。650℃以上ではヘリウム脆性のような粒界脆化に繋がるボイド生成も見られず、析出物の安定性も高い。一方、比較材の現行材PNC316鋼は大きなボイド成長を示し、γ`析出型Ni基EHP合金はHeを同時照射した場合にのみボイド生成が見られた。当該結果から、G系Ni基EHP合金が最も耐照射性に優れ、高Cr化に伴うγ相定性低下の悪影響も生じないことが確認出来た(図4)。

図4
図4.耐照射性評価試験結果
2-4.核燃料サイクル工程への適用性

 低除染MOX燃料の適用に伴う強放射線場の燃料製造〜炉心装荷の模擬評価では大気や低温プラズマ酸化試験、使用済燃料の水プール保管や先進湿式再処理の硝酸溶解工程の適用性では各環境対応JIS規格の浸漬試験を実施した(表2)。耐食性は、基本的にCr量に依存し、25%系のG系Ni基EHP合金が最も優れた耐食性を示し、熱時効脆化も生じ難い傾向を示した。現FaCT候補材のODSは、通常の水環境用のStrauss試験も満足出来ず、当該サイクルに不向きと言える。

表2.核燃料サイクル工程への適用性の基礎評価試験結果
表2
3.今後の展望

 本研究により、JSFRを念頭にした耐熱性、耐照射性及び耐食性の要求仕様が満足できる見通しの高い燃料被覆管材料として、G系Ni基EHP合金を開発することが出来た。今後は、当該成果を基にして、本プロジェクト計画の図1の右側に示してある、商用規模の製管技術を確立し、信頼性評価を行い、実用燃料被覆管の製造技術を確立する。併せて、燃料集合体の製造技術を開発して、小型バンドルを用いた実炉照射試験への展開や実機の設計に必要な基盤技術を整備する。

4.参考文献

(1)G.H.Kim et.al.,OECD NEA International Workshop on Structural Materials for Innovative Nuclear Systems, Daejeon, Republic of Korea, Aug.31-Sep.3 2010.

(2)金光鎬他、第5回高崎量子応用研究シンポジウム、高崎、Oct.14-15 2010.

(3)G.H.Kim et.al., 2010 MRS Fall Meeting, Boston, USA, Nov.30-Dec.2 2010(予定).

■ 戻る ■
Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室