原子力システム研究開発事業

原子力システム研究開発事業における平成18年度採択課題中間評価の結果について

原子力システム研究開発事業−特別推進分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名

 抽出クロマトグラフィ法によるMA回収技術の開発

2.研究開発の実施者

機関名:日本原子力研究開発機構代表者氏名:駒 義和
機関名:東京工業大学代表者氏名:竹下 健二(平成20年度より)

3.研究開発の概要

 FBRサイクルの実用化戦略調査研究において、抽出クロマトグラフィ法は、溶媒抽出法との比較において、経済性や廃棄物の発生の観点で有利になるとの評価結果が得られ、研究開発が推進されている。本事業では、工学規模(10kgHM/hの再処理プラントにおける高レベル放射性廃液(HLLW)処理量に相当する規模)における抽出クロマトグラフィ法によるMA回収技術について、工学規模における分離回収プロセス開発、分離塔を中心とした装置及び関連する遠隔運転保守技術を開発し、その基本性能を確認することを目的とし、下記のように実施する。

(1)アメリシウム及びキュリウム回収用抽出クロマトグラフィ塔の開発
①プロセス開発
 5種類の抽出剤(下記)を候補として、分離性能、安全性、使用後の処理方法に関する基礎的なデータを収集する。
・n-octyl(phenyl)-N,N-diisobutylcarbamoyl- methylphosphine oxide (CMPO)
・N,N,N'N'-tetraoctyl-3-oxapentane-1,5-diamide (TODGA)
・2,6-bis(5,6-dialkyl-1,2,4-triazine-3-yl-pyridine (R-BTP)
・bis(2-ethylhexyl)hydrogen phosphate (HDEHP)
・tetrakis(alkylpyridylmethyl)ethylenediamine (TRPEN)
 多孔性SiO2粒子にポリマーを被覆した担体(SiO2-P)に抽出剤を担持した吸着材を用いる。さらに、各吸着材を用いたMA回収フローシートを構築し、分離回収性能を評価する。これらを総合的に評価し、最適なMA回収フローシートを選定する。
②要素機器開発
 工学規模相当の寸法を有する分離塔を中核とする要素試験装置を製作し、分離塔内における液体、固体、気体の流動性、温度制御性等の安全性評価、耐久性に関する試験を行う。要素試験装置は、分離塔、要素試験システム及び試験用計装システムから構成する。
(2)クロマトグラフィ塔の遠隔運転保守技術の開発
①遠隔運転保守技術の開発
 吸着材交換等のメンテナンス方法について、遠隔操作性の観点から考慮すべき点及びその対策を検討し、試験によりその有効性を確認する。また、自動運転を考慮した制御システム、異常事象を検知及び抑制するための計装制御システムを検討する。
②工学規模機器開発
 工学規模での基本性能評価を行うための工学規模試験装置の設計・製作を行うとともに、本装置を用いて、安全性及び遠隔運転保守性に関わる基本性能の確認・評価試験を実施する。

4.研究開発予算

平成18年度147,016千円
平成19年度245,177千円
平成20年度258,237千円
平成21年度(予定)162,000千円

5.研究開発期間

 平成18年10月 〜 平成22年3月 (4年計画)

6.平成19年度までの目標

【研究開発項目1】アメリシウム及びキュリウム回収用抽出クロマトグラフィ塔の開発
①プロセス開発
(1)吸着材分離性能比較評価
 MA-Ln回収を目的としたCMPO吸着材、並びにMA/Ln分離を目的としたR-BTP吸着材(アルキル基(R-)としてiso-Hexyl基を有するもの)及びHDEHP吸着材について、硝酸溶液中における代表的なFP元素(Cs、Sr、Ln、Zr、Mo、Tc、白金族等)、U及びTRU元素(Am、Cm、Np、Pu)の吸着挙動や溶離挙動をコールド試験及びRI試験により確認する。また、吸着材の粒径及び細孔径が粒子強度、分離性能及び圧力損失に及ぼす影響についても評価を行う。
(2)吸着材安全性評価
 MA-Ln回収を目的としたCMPO吸着材及びTODGA吸着材、並びにMA/Ln分離を目的としたR-BTP吸着材(Rとしてiso-Hexyl基を有するもの)及びHDEHP吸着材について、耐硝酸性、耐放射線性、耐熱性を調べるため、吸着材を硝酸溶液と接触、または硝酸溶液と接触させながら高線量γ線を照射し、抽出剤の溶出量及び劣化度(吸着性能の変化)を測定する。さらに、硝酸及び放射線により劣化した吸着材の熱分析を行い、吸着材の熱的安定性を評価する。
(3)使用済吸着材処理方法検討
 CMPO吸着材及びHDEHP吸着材について、使用済吸着材の洗浄方法、洗浄後の抽出剤及びポリマーの分解方法、さらに、回収したSiO2-P担体の再利用の可能性を評価する。また、溶出する抽出剤の回収方法を検討する。
②要素機器開発
(1)要素試験装置構造検討・設計・製作
 一般産業界や原子力発電所において採用されている吸着装置について調査を行うとともに、要素試験装置に対する要求機能を明確にし、必要となる計測方法や装置構成を検討する。これに基づき、分離塔、要素試験システム及び試験用計装システムから構成される要素試験装置の設計・製作を行う。
(2)流動性把握試験
 上記(1)で製作した要素試験装置を用いて、分離塔内における液体(プロセス溶液)、固体(吸着材)、気体(放射線分解ガスを模擬したもの)の流動性を確認するための試験を実施し、最適な運転条件を検討する。液体の流動性は、供給流量及び液体供給方向をパラメータとし、塔内での均一な流速が得られる条件を決定する。また数値流体解析により試験結果を解析する。さらに気体の供給量を変化させ、気体の分離塔内での挙動を確認する。固体に関しては、スラリーにする際の濃度及び分離塔への供給速度を変化させ、吸着材充填及び抜出しについての最適な条件を決定する。
(3)安全性評価試験
 上記(1)で製作した要素試験装置及び抽出クロマトグラフィ用熱分析装置を用いて、安全性に係わる温度特性(応答性)を評価する試験を実施する。供給液の加熱や分離塔ジャケットによる管理における分離塔内の温度変化を調べる。

【研究開発項目2】クロマトグラフィ塔の遠隔運転保守技術の開発
①遠隔運転保守技術の開発
(1)遠隔操作性検討・試験
 一般産業界や原子力発電所における吸着材充填・抜出方法について調査する。この調査結果を踏まえて、遠隔操作により吸着材交換を行う方法を検討・選択し、選択した方法の妥当性を新たに製作する吸着材交換性評価試験装置を用いた試験により評価する。
(2)計装・制御方法検討
 一般産業界や原子力発電所において採用されている吸着用及びクロマトグラフィ用の計装方法や制御方法について調査を行う。調査結果を踏まえ、自動運転を考慮した制御システムを検討する。また、抽出クロマトグラフィ法を用いた実用規模システムにおける異常事象を抽出し、これら異常事象を検知するための計測システム及び抑制方法を検討する。
②工学規模機器開発
(1)工学規模試験装置検討・設計・製作
 工学規模クロマトグラフィ装置の基本性能評価を行うための試験装置の調査及び構造を検討する。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】アメリシウム及びキュリウム回収用抽出クロマトグラフィ塔の開発
①プロセス開発
(1)吸着材分離性能比較評価
 MA-Ln回収を目的としたCMPO吸着材、並びにMA/Ln分離を目的としたR-BTP吸着材(アルキル基(R-)としてiso-Hexyl基を有するもの)及びHDEHP吸着材について、硝酸溶液中における代表的なFP元素(Cs、Sr、Ln、Zr、Mo、Tc、白金族等)、U及びTRU元素(Am、Cm、Np、Pu)の吸着挙動や溶離挙動をコールド試験及びRI試験により確認した。また、吸着材の粒径及び細孔径が粒子強度、分離性能及び圧力損失に及ぼす影響についても評価を行った。
 CMPO吸着材に対する各元素の吸着挙動については、高レベル放射性廃液(HLLW)相当の供給液中においてMA, Pu, Ln, Mo, Zr等が強い吸着性を示すこと、その吸着速度は比較的速く吸着量のカラム通液流量依存性は小さいこと等を確認した。また、溶離挙動については、溶離液として純水あるいはジエチレントリアミン五酢酸 (DTPA) 溶液を用いることにより吸着したMA及びLnを速やかに溶離できること、Np, Puの溶離に対してはシュウ酸が効果的であること等を確認した。
 R-BTP吸着材に対する各元素の吸着挙動については、2mol/dm3硝酸溶液中においてMA, Pu, Pd等が強い吸着性を示すこと、その吸着速度は遅くカラム通液流量の増加とともに吸着量が顕著に減少すること等を確認した。また、溶離挙動については、溶離液として純水を用いることによりMA及びPuの溶離が可能であること、2mol/dm3硝酸溶液中においてその一部が吸着される重Lnについては溶離時におけるMAとの相互分離が困難であり、MAの選択的回収のためには吸着条件の見直しが必要であること等を確認した。
 HDEHP吸着材に対する各元素の吸着挙動については、上流(MA-Ln回収工程)からの供給液として想定されるDTPAを含む硝酸溶液中において、pHを2程度に調整した際にはMA及びLn以外の元素は概ね非吸着性を示すこと、吸着性を示すMAとLnの分配係数には差がありpHの上昇によりその差が増大すること、また、その吸着速度は遅くカラム通液流量の増加とともに吸着量が減少すること等を確認した。溶離挙動については、溶離液として1mol/dm3程度の硝酸を用いることによりMA及びLnの溶離が可能であること、これらの完全な相互分離については硝酸のみによる溶離では難しく、DTPAを用いたMAの選択的溶離等を考慮する必要があることを確認した。
 吸着材の粒径及び細孔径の違いについて、粒子強度への影響は認められなかった。また、分離性能は粒径の小さい担体が、粒径の大きい担体よりも若干良い結果が得られたが、細孔径の違いによる影響はほとんど見られなかった。圧力損失は特筆すべき相違が生じ、細孔径の大きな担体が最も圧力損失が小さく、抽出剤を含浸担持させても圧力損失がほとんど増加しないことが明らかになった。
(2)吸着材安全性評価
 MA-Ln回収を目的としたCMPO吸着材及びTODGA吸着材、並びにMA/Ln分離を目的としたR-BTP吸着材(Rとしてiso-Hexyl基を有するもの)及びHDEHP吸着材について、耐硝酸性、耐放射線性、耐熱性を調べるため、吸着材を硝酸溶液と接触、または硝酸溶液と接触させながら高線量γ線を照射し、抽出剤の溶出量及び劣化度(吸着性能の変化)を測定した。さらに、硝酸及び放射線により劣化した吸着材の熱分析を行い、吸着材の熱的安定性を評価した。
 CMPO吸着材を対象とした耐硝酸性評価試験では4.7 mol/dm3までの硝酸溶液中に30日間浸漬してもほとんど劣化しないことを確認した。耐γ線性評価試験では浸漬した硝酸濃度とは関係なくγ線照射線量の増大に伴い劣化が進行し、2MGyの照射により飽和吸着容量が約55%まで低下することを確認した。耐熱性評価試験では約220 ℃で発熱を伴う抽出剤の分解反応が開始し、重量が減少する挙動が確認された。硝酸及び放射線により劣化した吸着材を対象とした測定においては、220 ℃近傍における発熱及び重量変化が小さくなり、CMPO残存量の減少やCMPOの構造変化の可能性が示唆された。
 TODGA吸着材を対象とした耐硝酸性評価試験では4.7 mol/dm3までの硝酸溶液中における60日間の暴露によってもほとんど劣化しないことを確認した。耐γ線性評価試験では高濃度の硝酸溶液での劣化がより大きくなる傾向が認められたものの、4.7 mol/dm3硝酸溶液中において2MGyの照射を行った試料についても67%程度の飽和吸着容量を有していることを確認した。耐熱性評価試験では250 ℃近傍において鋭い発熱ピークを伴う抽出剤の分解反応が確認された。硝酸及び放射線により劣化した吸着材を対象とした測定においては、このように顕著な発熱は観察されず、TODGA残存量の減少やTODGAの構造変化の可能性が示唆された。
 R-BTP吸着材を対象とした耐硝酸性評価試験では硝酸濃度の増加に伴い顕著に劣化が進行する様子が認められ、2 mol/dm3以上の硝酸溶液中において、10日間の暴露によって約50%まで飽和吸着容量が低下し、60日間の暴露によって殆ど吸着能が喪失することを確認した。耐γ線性評価試験においては硝酸と放射線の複合要因により劣化が加速することが示され、2 mol/dm3硝酸溶液中においては0.25MGyの照射線量によって吸着能がほぼ消失することを確認した。耐熱性評価試験では約220℃で発熱を伴う抽出剤の分解反応が開始し、重量が減少する挙動が確認された。硝酸及び放射線により劣化した吸着材を対象とした測定においては、220 ℃近傍の発熱ピーク及び熱重量変化がブロードとなり、R-BTP抽出剤の溶出や分解が示唆された。
 HDEHP吸着材を対象とした耐硝酸性評価試験では3 mol/dm3までの硝酸溶液中に30日間浸漬してもほとんど劣化しないことを確認した。耐γ線性評価試験ではγ線照射線量の増大に伴い劣化が進行し、特に低濃度の硝酸溶液(0.01 mol/dm3硝酸)中では2MGyの照射により飽和吸着容量が約46%まで低下することを確認した。耐熱性評価試験では約220 ℃で吸熱を伴う抽出剤の分解反応が開始し、重量が減少する挙動が確認された。硝酸及び放射線により劣化した吸着材についても、HDEHP残存量の減少に起因すると考えられる熱重量減少率の低下が認められた以外は熱分解反応自体に大きな影響が無く、未処理の吸着材と同等程度の耐熱性を有していることを確認した。
 以上のようにR-BTP吸着材については高硝酸濃度における化学的安定性が相対的に低いことが明らかとなった。このような化学的特性は化合物の基本構造に起因するものであるので、当初候補吸着材として計画していた第2のR-BTP吸着材(Rを別の官能基としたもの)に替え、最新の研究開発状況について調査を行った結果、TRPEN抽出剤を候補として取り上げることとした。
(3)使用済吸着材処理方法検討
 CMPO吸着材及びHDEHP吸着材について、使用済吸着材の洗浄方法、洗浄後の抽出剤及びポリマーの分解方法、さらに、回収したSiO2-P担体の再利用の可能性を評価した。また、溶出する抽出剤の回収方法を検討した。
 使用済吸着材からの抽出剤洗浄については、アセトン、ジクロロメタン、代替フロン及び硝酸を用いた洗浄を実施した。CMPOの洗浄にはアセトン及びジクロロメタンが優れており、50℃程度の高温において洗浄率が高いことを確認した。また、HDEHPの洗浄にはアセトンが最も優れており、高温の方が洗浄しやすいことを確認した。
 洗浄後のCMPO及びHDEHP(劣化物を含む)、並びにポリマー(廃SiO2-P担体)の分解については、熱分解によりいずれも800℃までに分解が可能であることを確認した。また、オゾンガス吹込みによる分解試験では、HDEHP及び廃SiO2-Pの分解は困難であったが、CMPOは分解可能であることを確認した。
 回収したSiO2-Pを再利用することの可能性評価については、CMPO及びHDEHPを再び含浸した再生吸着材の吸着性能評価を実施し、いずれの再生吸着材も未使用のものと同等の吸着性能を有することを確認した。
 溶出する抽出剤の回収については、SiO2-P及び活性炭を用いた回収試験を実施し、CMPOの回収に対してはSiO2-Pが優れていることを確認した。一方、HDEHPの回収はSiO2-P及び活性炭では困難であることが明らかとなった。
②要素機器開発
(1)要素試験装置構造検討・設計・製作
 一般産業界や原子力発電所において採用されている吸着装置について調査を行うとともに、要素試験装置に対する要求機能を明確にし、必要となる計測方法や装置構成を検討した。これに基づき、分離塔、要素試験システム及び試験用計装システムから構成される要素試験装置の設計・製作を行った。
 要素試験装置に対する要求機能については、計画した試験項目毎に以下のように整理した。
・流動性把握試験(液体):塔径の異なる複数の分離塔への対応、供給方向及び流量の調整機能
・流動性把握試験(固体):スラリー濃度及び供給速度調整機能、抜出用純水供給速度調整機能
・流動性把握試験(気体):分離塔内への気体の吹き込み機能、分離塔内における滞留量測定機能
・流動性把握試験(共通):分離塔内における流速分布測定機能、理論段高さ測定機能、分離塔内の可視化
・安全性評価試験:分離塔内の温度制御機能(局所的な加熱機能を含む)、分離塔内における温度分布測定機能
・耐久性確認試験:多サイクル運転への対応、供給液及び排出液の切り替え機能、排出液の定期的なサンプリング機能
 以上を満足するため、調査結果から明らかとなった吸着装置に対する一般的な装置機能に加え、以下に示す試験機能を有する装置の設計・製作を行った。
・分離塔:2種類の塔径を有する合計3塔を準備する(各塔径は工学規模における処理量を考慮して決定する)。内部可視化のため1塔についてはアクリル製とする。他の2塔については塔内温度制御のための分離塔ジャケットを備えるとともに、塔内における流速分布、温度分布の測定及び局所的な加熱に対応するためのセンサー及びヒーター設置口を設ける。上下いずれからも液の供給が可能な構造とし、気体供給用ユニットの取り付けが別途可能なものとする。
・要素試験システム:多サイクル運転を考慮し、槽容量及び槽数を設定する。分離塔への各種供給液の供給速度及び温度調整機能を装備するとともに、バルブにより各種供給液(及び排出液)の切り替えを行う。また、スラリー濃度及び供給速度の調整が可能なスラリー供給槽を設ける。
・試験用計装システム:分離塔内の流速分布、温度分布及び局所的な加熱に対応するためのセンサー及びヒーターを準備する。分離塔からの気体排出量を測定するための回収塔を設ける。排出液の定期的なサンプリングを行うためのサンプリング装置とともに理論段高さを測定するためのトレーサー液供給槽及びインライン分析装置を装備する。
(2)流動性把握試験
 上記(1)で製作した要素試験装置を用いて、分離塔内における液体(プロセス溶液)、固体(吸着材)、気体(放射線分解ガスを模擬したもの)の流動性を確認するための試験を実施し、最適な運転条件を検討した。液体の流動性は、供給流量及び液体供給方向をパラメータとし、塔内での均一な流速が得られる条件を決定した。また数値流体解析により試験結果を解析した。さらに気体の供給量を変化させ、気体の分離塔内での挙動を確認した。固体に関しては、スラリーにする際の濃度及び分離塔への供給速度を変化させ、吸着材充填及び抜出しについての最適な条件を決定した。
 工学規模における処理量をベースとした条件下での液体の流動性については、液体供給方向が下から上の場合、及び流速を6cm/minとした場合では、通液条件において塔内の流速が乱れる傾向、または理論段高さが大きくなる傾向が認められたが、4cm/minの流速で上から下に通液した場合、流速の径方向への分布はほぼ一様となることが分かった。なお、分離塔中央部にて流速分布に多少変化が確認されたが、これはセンサー挿入による影響であると考えられる。本条件下においては、流体計算コードFLUENTを用いた充填層内部の流動性解析においても、流速分布は塔内に亘って一様であることを確認した。さらに、本流動性解析において、吸着材の圧力損失を小さくした計算の場合に壁面近傍の流速分布変化が大きくなったことから、本研究で使用する吸着材の圧力損失によって整流効果が得られていることが明らかとなった。
 放射線分解ガスの推定発生量をベースとした条件下での気体の流動性に関しては、塔内への気体の供給量に係らず、充填層内の気体は分離塔から排出し難く、これが塔内における液体の流速の均一性に悪影響を及ぼすことを確認した。
 固体の流動性に関しては、スラリー濃度15w%以下、スラリー供給流量6 dm3/minにて吸着材充填を行うことが安定な充填層を形成させる上で望ましいことを確認した。また、塔下部より水を5dm3/min程度で供給し、充填層を崩壊させることにより、ほぼ全量の吸着材を塔内より抜き出すことができることを確認した。
(3)安全性評価試験
 上記(1)で製作した要素試験装置及び抽出クロマトグラフィ用熱分析装置を用いて、安全性に係わる温度特性(応答性)を評価する試験を実施した。供給液の加熱や分離塔ジャケットによる管理における分離塔内の温度変化を調べた。
 分離塔内における溶液の流速をパラメータとした温度特性評価試験より、分離塔内部において放射性核種の崩壊熱を想定した局所的な発熱が生じた場合、流速が小さく、また、塔径が大きいほどその影響が顕著になることが示された。流速の増加に伴い分離塔(充填層)内の有効熱伝導率が上昇するため、流速が大きい条件下では局所的な発熱の影響は緩和されること、また分離塔ジャケットを使用することにより塔内の温度分布はより均等なものになることを確認した。

【研究開発項目2】クロマトグラフィ塔の遠隔運転保守技術の開発
①遠隔運転保守技術の開発
(1)遠隔操作性検討・試験
 一般産業界や原子力発電所における吸着材充填・抜出方法について調査した。この調査結果を踏まえて、遠隔操作により吸着材交換を行う方法を検討・選択し、選択した方法の妥当性を新たに製作した吸着材交換性評価試験装置を用いた試験により評価した。
 文献調査及びメーカーへの聞き取り調査から明らかとなった吸着材の充填及び抜出に係る複数の方式の中から、分離塔の構造として「スラリーを上部から供給」、「供給するスラリーはポンプ搬送」、「吸着材の圧密化は水圧方式」を実験的に検討すべきとの結論を得た。
 これら要件を反映した吸着材交換性評価試験装置を製作し、スラリー濃度及び供給速度をパラメータとした吸着材充填試験、及び水供給速度パラメータとした吸着材抜出試験を実施した。これらの試験から上記分離塔構造について基本的に問題が無いことを確認するとともに、吸着材供給配管の洗浄機能等、遠隔での吸着材交換において考慮すべき課題を明らかとした。
(2)計装・制御方法検討
 一般産業界や原子力発電所において採用されている吸着用及びクロマトグラフィ用の計装方法や制御方法について調査を行った。この結果を踏まえ、自動運転を考慮した制御システムを検討した。また、抽出クロマトグラフィ法を用いた実用規模システムにおける異常事象を抽出し、これら異常事象を検知するための計測システム及び抑制方法を検討した。
 調査においては、文献調査及びメーカーへの聞き取り調査を行い、抽出クロマトグラフィ法をMA回収装置へ適用する観点から整理を行った。調査の結果、流量計、温度計等の計測機器について、有機系材料を用いないセンサー式の機器はHLLWを取り扱う高線量環境下で適用可能であるが、ポンプやバルブ等の駆動部を持つ機器は一般に有機系材料が使用されており、高線量環境下では寿命が短く頻繁に交換が必要になることが懸念され、機器選定の際に十分考慮する必要があることを確認した。
 これらの調査結果を踏まえ、実用規模を想定したプロセスについて、プロセス運転において必要な計測方法、機器及び自動運転の制御について検討を行った。自動運転には分離カラムへ供給するHLLW及び分離回収を行う溶離液の供給の切り替え時期の自動化が重要であり、制御項目として、供給時間、液量及び分離カラム出口のMA成分濃度の3項目が挙げられた。これらの制御を行う上で必要となる機能を主要構成機器毎に摘出するとともに、機能を満足するための管理項目及び方法を抽出した。
 異常事象の抽出及び分類は、システム内の主要機器である分離塔、タンク、ポンプ、配管を対象に、安全上の問題が生じる火災・爆発への拡大、漏洩への拡大、臨界への拡大、閉塞への拡大の4つの観点、さらには機器機能喪失の観点から、事象進展フローを用いて実施した。これらの事象について、その検知システムや進展抑制のためのシステムを検討し、分離塔における温度計及び圧力計の設置や冷却系統の導入、配管への閉塞解除機能の付加等、必要となる計装機器や抑制方法を明らかとした。
②工学規模機器開発
(1)工学規模試験装置検討・設計・製作
 工学規模クロマトグラフィ装置の基本性能評価を行うための試験装置の調査及び構造を検討した。工学試験装置は10kgHM/hの再処理プラントにおけるHLLW処理量(約750L/d、実用規模の1/4相当)を想定し、実機での運転形態を考慮した。さらに、遠隔運転に必要な計装・制御機構、吸着材の充填・抜き出し機構などを備えたものとし、溶液の供給槽や貯留槽を含めた装置システムとした。
 工学規模装置の情報収集においては、プラントの運用形態及び遠隔システムを対象とした調査を行い、プラント運用を行う上で構築が必要となるシステム項目や遠隔システム開発時において考慮及び要求される事項について整理を行った。本調査結果に加え、平成18、19年度に実施した要素機器開発、計装制御方法検討、遠隔操作性検討の結果を踏まえて、分離塔、装置システム、及び吸着材の遠隔交換方法を検討した。分離塔に関しては、塔内の安全計装や冷却機構、吸着材の充填・抜出方法等を考慮し、その概念構造や運転方法を決定するとともに、装置システムについては、流量及び時間管理による自動運転制御の採用が適当と考えられ、溶液切り替えのための機器構成や各種溶液の供給・回収システム等を明確化した。また、吸着材の遠隔交換方法に関しては、吸着材をスラリーで取り扱い、機器を一括して交換する方式が最も適切であると考えられた。以上の検討結果を基に、工学規模装置の概念を明らかとした。
 この検討結果を受け、本研究開発課題に与えられた達成目標を確実に達成しつつ今後の研究開発を合理的かつ効率的に進めるため、工学規模試験装置は、安全と遠隔運転保守に関する機能を備えるよう製作し、これを用いて遠隔運転保守とカラム性能に関する試験を中心に実施することとした。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
・本技術の採否判断が可能となる根拠のある定量的なデータが得られるように試験を進めてもらいたい。
・他の方法との比較に必要な定量的なデータの蓄積を期待したい。
・実際の高放射性廃液を使ったデータの取得については、別途、原子力機構で計画されているホット試験に期待する。

【研究開発項目1】アメリシウム及びキュリウム回収用抽出クロマトグラフィ塔の開発
・抽出剤の選定に当たって比較が出来るような、定量的なデータの取得に注力して試験を進めてもらいたい。
・本技術の採否判断が可能となる根拠のある定量的なデータが得られるように試験を進めてもらいたい。

【研究開発項目2】クロマトグラフィ塔の遠隔運転保守技術の開発
・工学規模試験で確認しておくべき定量的な目標を定めて、データを取得するように試験を進めてもらいたい。その際、本技術の採否の判断基準を想定しながら、それをクリアするための定量的なデータを取得出来るように試験を進めてもらいたい。

9.中間評価結果

・定量的データが取得出来るよう、調整すべき所は見直しながら試験を進めてもらいたい。

10.総合評価

a(継続すべき)
b(継続すべきだが、計画について調整の必要がある)
c(継続すべきだが、計画の一部見直しの必要がある)
d(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
e(継続すべきではない)

Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室