原子力システム研究開発事業

HOME中間・事後評価原子力システム研究開発事業における平成18年度採択課題中間評価の結果について
(資料4)中間評価 総合所見公表用 高クロム鋼を用いた1次冷却系配管に適用する流量計測システムの開発
原子力システム研究開発事業における平成18年度採択課題中間評価の結果について

原子力システム研究開発事業−特別推進分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名及び研究開発分野

 高クロム鋼を用いた1次冷却系配管に適用する流量計測システムの開発

2.研究開発の実施者

機関名:三菱FBRシステムズ株式会社 代表者氏名:岩田 東
機関名:日本原子力研究開発機構 代表者氏名:平林 勝
機関名:筑波大学 代表者氏名:文字 秀明

3.研究開発の概要

 本事業では、ナトリウム冷却炉の実用化概念である1次冷却系の直管部が短い高クロム鋼(磁性体)の2重管構造の大口径配管に適用する安全保護系流量計測システムに適合する方式と考えられる超音波伝搬時間差多測線方式流量計測システム(超音波センサは配管に直接接触させる)について、高温用超音波センサ技術、センサ遠隔交換技術、信号処理技術の開発及び測線最適化検討を行い、実機に適用するシステムの仕様、有効性及び安全保護系適用への課題の解決方策を示すことを目標とする。

4.研究開発予算

平成18年度 90,588千円
平成19年度 189,893千円
平成20年度 170,289千円
平成21年度(予定) 137,000千円

5.研究開発期間

 平成18年10月 〜 平成22年3月 (4年計画)

6.平成19年度までの目標

【研究開発項目1】高温用超音波センサ及びセンサ遠隔交換技術の開発
① センサ検討及びセンサ試験
(平成18年度)
1) 基本開発仕様検討
 実用炉設計条件及び遠隔交換機構との取合を踏まえてセンサへの要求事項を検討し、試験条件や小型化を含む基本開発仕様を設定する。
2) 構造検討
 センサの小型化、圧電素子周り、外部ケーブル接続部及びカプラントについて基本開発仕様への適合概念を検討し、これに基づき形状・寸法、構造を検討する。
3) 外部ケーブル接続部の要素試験
 外部ケーブル接続部について構造検討結果に基づき要素試験への要求事項を検討し、要素試験体を設計、製作して、高温及び温度サイクルを加え、基本性能を確認する。
4) センサの圧電素子周り及びカプラントの要素試験計画及び要素試験体設計
 センサの圧電素子周り及びカプラントの構造検討結果に基づき要素試験への要求事項を検討し、要素試験要領の検討、要素試験に必要な試験体及び治具の基本設計を行う。
(平成19年度)
1) センサの圧電素子周り及びカプラントの要素試験体製作、要素試験
 平成18年度のセンサの構造検討に基づきセンサの圧電素子周り及びカプラントの要素試験体を製作し、要素試験を行って基本性能を確認する。
2) センサ試験体基本設計
 平成18年度のセンサの構造検討及び外部ケーブル部要素試験並びに平成19年度の圧電素子周り及びカプラント要素試験に基づき、センサ試験用のセンサ試験体(含む、試験治具、計測器)の基本設計を実施する。
② センサ遠隔交換機構検討
(平成18年度)
1) 基本開発仕様検討
 実用炉設計条件及びセンサとの取合を踏まえて遠隔交換機構への要求事項を検討し、試験条件を含む基本開発仕様を設定する。
2) 構造検討
 小型化、センサ押付力及びセンサ取付姿勢の安定化について基本開発仕様に適合する複数のセンサ押し付け機構概念を検討し、2案を選択して形状・寸法、構造を検討する。
3) 要素試験計画及び要素試験体設計
 構造検討結果に基づき要素試験への要求事項を検討し、選択した2案について要素試験要領の検討、要素試験に必要なセンサ押付機構の要素試験体及び治具の基本設計を行う。
(平成19年度)
 平成18年度のセンサ遠隔交換機構の構造検討に基づきセンサ押し付け機構の2つの候補案の要素試験体を製作し、要素試験を行って基本性能を確認する。
③ センサ・遠隔交換機構試験
 平成18年度のセンサの構造検討及び外部ケーブル部要素試験、平成19年度の圧電素子周り及びカプラント要素試験並びにセンサ遠隔交換機構検討に基づき、センサ・遠隔交換機構試験用のセンサ試験体(含む、試験治具、計測器)の基本設計を行う。また、平成18年度のセンサ遠隔交換機構の構造検討及び平成19年度のセンサ遠隔交換機構検討に基づき、遠隔交換機構試験体並びにセンサ・遠隔交換機構試験体の基本設計を実施する。

【研究開発項目2】信号処理技術の開発
① 信号処理装置試験体の設計、製作、改良
(平成18年度)
1) 基本開発仕様検討
 実用炉設計条件及びセンサとの取合を踏まえて信号処理手法及び信号処理装置への要求事項を検討し、試験条件を含む基本開発仕様を設定する。
2) 信号処理装置試験体の設計、製作
 信号処理手法の検討及び信号処理装置試験体の設計、製作を行い、予備試験を行う。
(平成19年度)
 信号処理手法及び信号処理装置試験体を、基礎水試験結果に基づき計測精度の向上、計測時間の短縮について改良する。
② 基礎水試験
(平成18年度)
 信号処理手法検討用データベースを得るため、実用炉で想定される複雑な流況を想定した観察データ及び超音波データの取得を目的とした基礎水試験の試験体の設計、製作を行い、予備試験を行う
3) 水流動試験体計画
 試験計画を受けて水流動試験体の基本設計及びポンプ組込型IHX試験装置への設置方法の検討を行う。
(平成19年度)
① 水流動試験体製作、試験
 平成18年度の基本設計に基づき水流動試験体を製作し、ポンプ組込型IHX試験装置に設置する。また、予備試験を実施する。
② 測線最適化手法検討
1) 測線最適化手法検討
 平成18年度の流量計出力に影響を及ぼす主要因子の検討結果に基づき、流量計への影響因子をパラメータとしたときの流量計出力を予測することで、開発目標を満足する超音波流量計性能を得るための測線数の最適化を行う手法を検討する。また、水流動試験についての予測解析結果を評価する。
2) 水流動試験測線数予測解析
 測線最適化手法検討結果に基づき、超音波流量計の信号処理方法の検討を加え、水流動試験での最適測線数について予測解析を実施する。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】高温用超音波センサ及びセンサ遠隔交換技術の開発
① センサ検討及びセンサ試験
(平成18年度)
・実用炉設計条件並びにセンサ遠隔交換機構及び信号処理装置との取合仕様を踏まえ、試験条件を含む圧電素子方式超音波送受信子の基本開発仕様を設定した。
・センサの小型化、外部ケーブル接続部、圧電素子周り及びカプラントについて基本開発仕様への適合概念を検討し、基本構造を設定した。センサの外形寸法は、幅40mm、長さ70mm、高さ40mmとした。
・外部ケーブルの接続部について、基本構造検討結果に基づき、センサケースにスリーブを溶接しそのスリーブに外部ケーブル(MIケーブル)をろう付けする方式の要素試験体を製作し、高温(560℃(事故時最高温度に余裕を考慮した温度、100h)及び温度サイクル(160℃(プラントの低温停止時温度に温度差が大きくなる方向に余裕を考慮した温度)〜560℃、5サイクル)を印加して絶縁性能等の測定を行い、今後の試験に適用できる方式であることを確認した。
・基本構造検討結果に基づき、圧電素子周り並びにカプラント部について要素試験要領を検討し、要素試験体及び試験治具の基本設計を完了した。
(平成19年度)
・平成18年度の基本設計に基づき圧電素子周り並びにカプラント部の要素試験体を製作して試験を実施し、次の成果を得た。
 センサは圧電素子にダンパを付けなくても良好な信号減衰特性が得られることが分かった。この結果から、構造が簡素となるダンパなしとした。
 拡散熱結合による圧電素子とシューの接合部に対して高温及び温度サイクル(条件は外部ケーブルに対する試験と同じ。以下同じ)を印加しても特性に特に劣化はないことが分かった。この接合方法は今後の試験に適用できる。
 カプラントの候補材である金と銀について、高温及び温度サイクルを印加するとともに、押付角度を変えて伝音特性を比較した結果、わずかながら銀の方が優れることが分かった。また、高温及び温度サイクル印加後、配管を模擬した板材への残留を調査した結果、両者とも残留は極わずかであるが、なかでも銀の方の残留が少ないことが分かった。これらの結果、及びシューと同じ材質で削り出しにより構成でき、シューとの接合を必要としないことから、銀を採用することとした。
  センサの設計に必要なシューの材料である銀、配管の材料である改良9クロム鋼の温度に対する音速データを取得した。
・上記の要素試験結果に基づき、センサ試験要領を検討し、センサ試験体及び試験治具の基本設計を完了した。
現在、センサ試験用センサ試験体の製作に向けて製作設計、材料手配を実施中である。
② センサ遠隔交換機構検討
(平成18年度)
・実用炉設計条件及び高温用超音波センサとの取合仕様を踏まえて、試験条件を含むセンサ遠隔交換機構の基本開発仕様を設定した。
・小型化、センサ押付力及びセンサ押付姿勢の安定化を中心に基本開発仕様に適合する複数のセンサ押付機構概念を検討し、その中から皿バネ式及びベローズ(ガスバネ)式を候補案として選択し、形状・寸法及び構造を設定した。センサの交換は、配管周方向1列に配置されたセンサ(最大8個(8測線に対応))を一括で行う方式とした。
・センサ押付機構構造検討結果に基づき選択した2案について要素試験要領を検討し、要素試験体及び試験治具の基本設計を完了した。
(平成19年度)
 平成18年度の基本設計に基づき皿バネ式及びベローズ式の押付機構要素試験体を製作して要素試験を実施し、押付面の傾き、押付均一性及び押付力維持並びに停止位置精度に係わる全ての性能目標を満足するベローズ式を選定した。
以上によりセンサ遠隔交換機構検討を完了した。
③ センサ・遠隔交換機構試験
(平成19年度)
・①平成18年度及び19年度のセンサ検討及びセンサ試験の要素試験結果に基づき、試験要領を検討し、センサ・遠隔交換機構試験用センサ試験体及び試験治具の基本設計を完了した。
・②平成19年度のセンサ遠隔交換機構検討の要素試験結果及び平成18年度のセンサの交換に係る検討結果に基づき、試験要領を検討し、遠隔交換機構試験体、センサ・遠隔交換機構試験体の基本設計を完了した。
現在、センサ・遠隔交換機構試験用センサ試験体の製作に向けて製作設計、材料手配を実施中である。

【研究開発項目2】信号処理技術の開発
① 信号処理装置試験体の設計、製作、改良
(平成18年度)
・実用炉設計条件及び高温用超音波センサとの取合仕様を踏まえて、試験条件を含む信号処理装置の基本開発仕様を設定した。
・計測要求を満足する信号処理手法の開発に必要な超音波データの取得、並びにこれらのデータに基づき検討する信号処理手法の適用性確認に使用する信号処理装置試験体について、信号処理手法及び信号処理装置ハードウェア構成に関する基本仕様を設定して、試験体主要部の設計、製作を完了した。
(平成19年度)
基礎水試験にて取得したデータに基づき検討を行い、次の成果を得た。
・発達した流動場の計測データの分析から、流量計測値と参照用流量計の指示値が精度内で一致しており、設定した信号処理装置試験体の基本仕様及び機能が適切であることを確認した。
・実用炉を想定した流況の観察データ及び超音波データの分析から、速度分布と伝搬時間差の間に相関関係が示されていること(速度分布に対応した伝搬時間差であること)、並びに流量に対する速度分布形状の依存性が小さいことを確認した。これより、実用炉を想定した流況においても、目標の直線性を満足する見通しを得た。
・流況変動による流量出力値の変動抑制効果について、測線数及びフィルター処理回数をパラメータにして応答要求を満足する超音波データ計測周期を評価した。その結果、信号処理装置として、実現可能な仕様(ハード構成、処理アルゴリズム)で目標を達成できる見通しを得た。また、この結果から水流動試験(ポンプ組込型IHX試験装置を用いた中型炉と等流速相似条件の試験)における超音波データ計測仕様を設定して、信号処理装置試験体を改良(測線数増加、計測精度向上、計測時間短縮)した。
現在、水流動試験による超音波データ取得に向けて準備中である。
② 基礎水試験
(平成18年度)
 信号処理手法の検討に必要なデータベースの取得を目的とした基礎水試験を計画して、実用炉で想定される流況の観察データ及び超音波データが計測可能な基礎水試験体を設計、製作した。
(平成19年度)
 基礎水試験を実施して、信号処理手法検討用データベースを整備するとともに、複雑な流れにおける流況と超音波伝搬時間差の関係、並びに流況変動と変動抑制効果(測線数、フィルター処理)の関係を把握した(結果を①信号処理装置試験体の設計、製作、改良に記載)。
以上により基礎水試験を完了した。
③ ナトリウム試験
(平成18年度)
 大口径配管による超音波の減衰を補償する信号処理手法を検討するために、高温液体金属ナトリウムに固有の超音波音圧減衰データの取得を目的としたナトリウム試験を計画し、試験体の基本設計を完了した。
(平成19年度)
 平成18年度の基本設計に基づいてナトリウム試験体を製作し、水による予備試験を実施した。その結果、取得したデータは、理論による超音波減衰と同様な傾向であることを確認した。これにより、ナトリウム試験によりナトリウムの超音波音圧減衰データの取得が可能となった。
現在は、ナトリウム試験の準備中である。
【研究開発項目3】測線最適化検討
① 水流動試験計画
(平成18年度)
・既存のポンプ組込型IHX試験装置に水流動試験体を設置して実施する水流動試験の条件を設定するための流動解析を行った。その結果、流速分布及び速度の時間変動の影響が明らかになり、これらを流量計出力に影響を及ぼす主要因子として挙げ、これらを計測できるよう試験計画を立案した。試験計画では流量条件として中型炉と等流速相似条件を採用することとしたが、流量計出力の直線性の確認のため、他の流量条件についても行うこととした。計測では流れの可視化を行い、速度分布を計測するためにLDV(レーザードップラー流速計)及び熱線プローブを用いることとした。
・上記の試験計画に基づき水流動試験体の基本設計を行い、試験体のポンプ組込型IHX試験装置の設置方法を設定した。
・以上により水流動試験計画を完了した。
② 水流動試験体製作、試験
(平成19年度)
 平成18年度の水流動試験体の基本設計に基づき水流動試験体を製作し、ポンプ組込型IHX試験装置への設置を完了した。
 現在、水流動試験の準備中であるが、ポンプ組込型IHX試験装置のポンプ部液面から気泡の巻き込みがあり、試験装置定格の約40%を超えるとLDVによる流況計測及び超音波データの取得ができないことが分かったので、対応を検討中である。
③ 測線最適化手法検討
(平成19年度)
 開発目標を満足する超音波流量計性能を得るための測線数の最適化を行う手法(測線最適化解析評価手法)を検討し、流動予測解析及び超音波流量計出力算出プロセスよりなる測線最適化解析評価手法を構築した。超音波流量計出力算出プロセスでは現実の算出手法に即した算出式を用いた他、測線太さの影響を考慮した。更に、この測線最適化解析評価手法を適用して水流動試験における測線数予測解析を実施して、測線数や測線位置の組合せを変えての流量計出力を取得して配管断面平均流量との違いを明らかにし、ここで構築した手法が測線最適化のための評価手法として用いることができることを確認した。また、この解析の結果では、主流方向速度の速度分布形状が流量によって大きく変わらないため、複数の測線を適切に組合せれば、目標の直線性±2%FS以下を満足できる可能性が示された。以上により測線最適化手法検討を完了した。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
・今までにあまり経験のない流量計測の環境条件であるので、流速分布やセンサ寿命など慎重に考慮しながら実施してもらいたい。次のステップでは、超音波センサの耐久性に関する追加実験と実規模大のシステム確証試験を行うことが望ましいと考える。
・計画通りに成果が出ており、全体的にプロジェクトの進捗は順調である。このまま開発を遂行して、目標を達成してもらいたい。

【研究開発項目1】高温用超音波センサ及びセンサ遠隔交換技術の開発
・次のステップではセンサ耐久性に関する追加の試験を行うことが望ましいと考える。
・センサ寿命として26ケ月を開発目標とすることは妥当と考える。今後の実績の蓄積でセンサの長寿命化が図られることに期待したい。

【研究開発項目2】信号処理技術の開発
・コールドレグ(原子炉入口配管)間の流量が不均一となることによる流量測定精度への影響については、次のステップで実規模大の確証試験を行い、確認することが望ましい。

【研究開発項目3】測線最適化検討
・状況により管内流速分布が変化する可能性があり、これを考慮して検討と実験を進めてもらいたい。
・逆止弁のない2ループ構成の冷却系という、今までにない冷却系統構成となっているので、さらに注意深く検討を進めてもらいたい。

9.中間評価結果

・ナトリウム冷却炉の実用化のための重要な技術であり、本課題で研究を進めている3つの研究開発項目の継続は必須であると考える。
・順調に成果が出ており、全体的にプロジェクトの進捗は順調である。計画通りに開発を遂行して、目標を達成してもらいたい。

10.総合評価

a(継続すべき)
b(継続すべきだが、計画について調整の必要がある)
c(継続すべきだが、計画の一部見直しの必要がある)
d(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
e(継続すべきではない)

Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室